第125話 嫌われ勇者、口を滑らせる

 家出をしたマデリーン・ハルマンの捜索。

 とりあえず、俺は翌日の学園祭でやることが多くあるため、明日の早朝に近辺を捜索することにした。




 ジョエルたちと別れた俺は再び会場へと戻る。

 ちょうどその時、話を終えたティーテがやってきた。


「お待たせしました、バレット」


 相当楽しかったらしく、ティーテは満面の笑みだった。

 

「姉さんたちと楽しそうに話していたじゃないか」

「明日の打ち合わせも兼ねてなので、ちょっと緊張もしていましたけど……それより、バレットはどこかへ行っていたのですか?」

「えっ?」

「レイナさんがバレットも呼ぼうと提案してくださいましたが、姿が見えなかったので……」

「あ、ああ、ちょっと外の空気を吸いにな」


 ぐぐぐ、さすがにあの件をティーテにまだ言えない。

 ジャーヴィスの時もそうだったが、ティーテに隠し事をするなんて本当に心が痛む。早いとこ解決して、全貌を包み隠さず伝えなければ!


 そんな決心を胸に秘めたところで、前夜祭は終了。

 俺とティーテは一緒に寮へと帰ることにした。




 寮の自室に戻った俺は、マリナからマデリーンに関する資料を渡され、それに目を通していた。

 しかし……ハルマン家も大変だな。

 娘の突然の家出ってことだけど、その辺の情報についてはあまり鵜呑みにしていない。

 理由はふたつある。


 まず、貴族令嬢であるマデリーンがいなくなったというのに、ハルマン家側の動きはとても静かだった。家出の詳細について、ジョエルもエレノアさんも語らなかったことも含め、慎重に状況を見極める必要がありそうだ。


 そしてもうひとつ。

 これは直接関与しているものではないが、気になったので一応頭に入れておく。


 ジョエルの名を、俺は原作【最弱聖剣士の成り上がり】で聞いた記憶があった。

 敵か味方か――その辺の記憶が曖昧なんだよなぁ。

 どっちだったか……。


「そういえば……」


 この時、ふと思い出す。

 こっちの世界に来てからかれこれ半年近く。

 

 もう、前世の世界――日本では、【最弱聖剣士の成り上がり】の書籍第一巻が発売されている頃だ。確か、書籍発売と同時にコミカライズって話だったから、そっちも連載が始まっているはず。


「…………」

 

 あっちで発売されている原作は、ラウルのハーレムルートなんだよな。

 まあ、読者だった頃はそれに俺自身も満足していたけど、こっちで幸せそうにしているティーテを見ていると複雑な心境だ。


「向こうの情報が少しでも手に入ればなぁ……」


 まあ、学園編は本筋から離れているし、あまり意味はないんだろうけど。

 そんなことを思っていると、部屋を誰かが部屋をノックする。


「バレット様、少し休憩しませんか?」


 マリナだった。

 俺は入室を許可し、マリナの淹れてくれたコーヒーに口をつける。


「いつ飲んでもうまいよなぁ、マリナのコーヒーは」

「ふふふ、ありがとうございます」


 優しく微笑むマリナ。

 年齢差から言っても姉弟っぽいよな。


 実際、マリナみたいな姉がいたらいいだろうなぁ。

 いや、レイナ姉さんも姉としては申し分ない。ただ、マリナはレイナ姉さんとベクトルが違う姉だ。レイナ姉さんはキリッとした「できる美人」って感じだが、マリナの場合は「優しくて包容力がある」姉だ。どちらも甲乙つけがたい。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ――マリナ姉さん」

「!?」


 ……しまった。

 変なこと考えていたら呼び方が――


「し、失礼します!」


 マリナは一瞬にして耳まで赤くし、そそくさと部屋を出ていく。

 ……次からちょっと気まずいなぁ。


 明日は予定よりも早めに、マデリーン・ハルマンの捜索に出るとするか。

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