第123話 マデリーンの秘密
武闘大会でラウルと戦う予定になっている一年後輩のマデリーン・ハルマン。
前夜祭の終了間際、彼女は専属のメイド(と思われる人物)に付き添われる形で会場をあとにしたのだが……気になったのはその時に見せた表情だ。
何かある。
直感でそう感じた俺は、ティーテがレイナ姉さんと話し込んでいるうちにその後を追ってみることにした。
帰路に就く学生たちの間を縫うように進み、たどり着いたそこは――
「? トイレ?」
講堂のトイレだった。
ふたりの姿は見えないが、この先は行き止まりである。となると、揃って女子トイレに入っていったのか?
「なんだ……心配して損したな」
まあ、その辺は女子だからいろいろとあるのだろう。
あまり男子が詮索してはいけないデリケートな問題だ。
ただ、この場所は今の俺にとって都合がいい。
「……ついでに寄って行くか」
実はさっきからトイレに行きたかったんだよな。
特におかしな点もないみたいだし、ササッと終わらせてティーテのところへ戻ろう。
そう思って、俺は男子トイレへと入る。
ここはすべて個室トイレになっているが、一番奥は誰かが使用しているようだ。俺は奥からふたつ離れた個室へ入ろうとした――まさにその時だった。
ガチャ。
奥の個室のドアが開き、そこから出てきたのは意外すぎる人物だった。
「「あ」」
その人物と目が合い、声が重なる。そして、
「えっ……マデリーン・ハルマン……?」
そう。
てっきり女子トイレに入ったと思っていたマデリーンは男子トイレにいた。
だが……なぜだ?
さすがに中の様子は分からなかったが、外の様子からして女子トイレは混雑していなかったはず。それなのにどうして――
「!?」
その時、とてつもない殺気を背後に感じ、俺は反射的に聖剣を引き抜いて振り返る。そこに立っていたのは、先ほどマデリーンに付き添っていたメイドだった。
「……知ってしまいましたね?」
美人な見た目とは裏腹に、低くドスの利いた声で迫るメイド。
な、なんて迫力だ……。
この威圧感――この前戦ったワイバーンに匹敵する!
徐々に距離を詰めてくるメイド。
だが、こちらに飛びかかってくる気配はない。
その行動から、俺はふたつの仮説を立てた。
ひとつ。
それは彼女自身が俺の処遇に苦慮していること。
恐らく、俺が一般学生だったら、向こうはいくらでもやりようがあっただろう。
だが――自分で言うのもなんだけど、厄介な相手に見つかってしまった。口封じをしようにも、聖剣持ちの俺と戦闘になれば、向こうに勝機はない。かといって、このまま放置するわけにもいかない。その葛藤が、彼女の決心を鈍らせ、それは行動の鈍さへとつながってしまっている。
そしてもうひとつの仮説は――むしろでへたり込んでいるマデリーンについて。
あれから特に何か行動したりはしていない。
沈黙を守り続けている。
今、俺はメイドに視線を合わせているため、背後にいるマデリーンがどんな表情をしているかは掴めない。
――だけど、きっとこんな顔をしているのだろうという想像はできた。
それは、共同浴場でジャーヴィスと鉢合わせた時に見せた、彼女の顔。
恐らく、今のマデリーンは――
「エ、エレノア……バレちゃったよぉ……」
涙声のマデリーン。
やはり、そういうことか。
マデリーン・ハルマンは――男の娘!
「……うん?」
でも、ちょっと待てよ。
確か、原作だと、すべてのヒロインと心身ともに結ばれたって……
「……まさか、そんな」
ラウルは両方イケるクチなのか……?
さまざまな疑問渦巻く中、俺はエレノアと呼ばれたメイドに停戦を呼びかける。
「待ってくれ。俺は事を荒立てたくない。冷静に話し合おう」
「…………」
どうすべきか、決断を下せずにいたエレノアは大きく息を吐いて俺の提案を呑んでくれた。
さて、これからどうしたものか……。
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