第122話 嫌われ勇者、修羅場に突っ込む

 少し触れただけでも大火傷しそうな雰囲気を醸し出すユーリカとマデリーン。


 あそこに入っていくのか……今さらだが、ちょっと後悔。

 しかし、俺の存在に気づいたラウルが涙目で「助けてください、バレット様!」と訴えている。さすがにあのまま放置ってわけにもいかないか。


「よぉ、ラウル、ユーリカ」


 とりあえず、同じ学園騎士団のメンバーに挨拶をしに来たという格好で挨拶。


「……バレット様」

「……バレット先輩ですか」


 重い!

 ここだけ重力の働きが狂っているんじゃないかって思うほど重い!


 ……だが、負けるな、バレット。

 これもラウルを救うためだ。


「えぇっと……君は確か、マデリーン・ハルマンだったな?」

「はい」

「ラウルとは知り合いだったのか?」

「夏の連休の際、たまたま森で会ったんです。……私はモンスターに襲われていて、そこをラウル先輩に助けてもらったんです」

「ぼ、僕だけじゃなくてクラウス師匠もいたんだけどなぁ」

「あの時は本当にありがとうございました」

「ど、どういたしまして……」


 なるほど。

 初対面ではなく、過去にそういうつながりがあったのか。


 しかし……これ、何気に重要情報だよな。

 原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、ラウルとマデリーンの出会いは描かれていない。というか、数少ない、原作スタート前からの知り合いってことだったはず。

 

 その理由までは描写されていないが……まずいな。これはもう完全にフラグが成立してしまっているぞ。


 これまで会った原作のハーレム要員たちは、それぞれ別の相手を見つけ、そもそもラウルを恋愛対象として認識していなかった。

 だけど、マデリーンは違う。

 明らかにラウルへの好意が見て取れる。

 ……それも、かなり強い。

 それこそ、「すでに相手がいようが関係ない。奪い取るまで」という意思を感じる。


「武闘大会で先輩と戦えるなんて……本当に光栄です」

「そ、そんな、大袈裟だよ」


 ラウルはラウルで、キッパリと引き離すことはできていないようだ。

 まあ、原作ではその性格が災い(?)してハーレム作っちゃうわけだが。


「……ラウル、そろそろ」

「あ、そ、そうだね。じゃあ、マデリーン。明日の試合を楽しみにしているよ」

「はい♪」


 ユーリカに引っ張られ、ラウルは半ば強制退場。

 あの調子なら、大丈夫そうかな。

 原作でも、ラウルとユーリカが序盤でくっついていたら、ハーレム要素なしのラブコメ展開だったに違いない。


「バレット先輩」


 ホッと胸を撫で下ろし、ティーテのところへ戻ろうとすると、マデリーンの方から声をかけてきた。


 改めて、マデリーン・ハルマンという女子を見る。

 肩口にかかる緑色の髪に大きな瞳に整った目鼻たち。

 そして全身から放たれるヒロインのオーラ。

 

この世界に来て、なんとなく感じるんだが……ヒロインキャラっていうのは、なんか独特のオーラみたいなのを持っている。まだ接触していない原作ヒロインはあとふたり……できることなら、ラウルとのフラグを建てる前になんとかしたいな。


「? どうかしましたか、バレット先輩」

「!? い、いや、なんでもない。それより、俺に何か用か?」

「宣戦布告です」

「えっ!?」


 それを真正面から口にするか!?


「私は、あなたともいずれ戦いと思っています」

「! ……そういうことか。いいぜ。俺はいつでも受けてたつぞ?」

「それを聞けて安心しました。では、またいずれ」


 そう言ってクールに去っていくマデリーン。

 意識高い系ってヤツなのかな。

 ……こうなってくると、恋愛的な好意というより、憧れって感じか?

 ともかく、終わったらマリナたちがまとめてくれているはずの情報を整理してみるか。




 その後、俺はティーテのもとへ戻ってきて、前夜祭を楽しんだ。

 そんな大きな盛り上がりを見せた前夜祭もいよいよお開きの時間。

 ティーテは最後にレイナ姉さんへ挨拶に行ってくるとその場を離れていった――と、


「うん? あれは……」


 ふと、視界にマデリーンの姿が映った。

 隣にいる若い女性は……マデリーンの専属メイドか?

 気になったのはマデリーンの表情。 

 遠いのでハッキリとしたことは分からないが、青ざめているように見える。


「何かあったのか……?」


 脳裏によぎったのはラウルとユーリカの暴走事件。

 もしかしたら――そう思った瞬間、俺はマデリーンたちを追って駆けだしていた。


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