第120話 嫌われ勇者、会場づくりに精を出す
対戦表を見た後、俺とティーテは生徒会を訪れた。
ラウルとハーレム要員の戦い……気になるところではあるが、今は静観しよう。下手に動き回ってややこしくなるのは避けたい。
まだ特に目立った接点があるわけじゃないしな。
俺は明日開催されるドレス品評会の会場設営に、ティーテはドレスの最終調整のために駆り出され、しばし別行動となる。
「バレット、工具一式が見当たらないんだけど、知らないか?」
「それならさっきジョアンが持っていったぞ」
「あっ! そうだった! さっき貸したんだった!」
「バレットくん、頼まれていた物はこれでよかったかしら?」
「おおっ! バッチリだ! ありがとう、セリア」
仲間と一緒になって会場を作りあげていくが……なんていうか、春先からは考えられないくらい軽やかなやりとりができている。
あの頃はまだ俺に対して恐怖心を抱く学生ばかりだったからな。
ティーテ、ジャーヴィス、ラウル以外の生徒と今くらいのレベルまで打ち解けるにはだいぶ時間がかかった。
この関係性を大切にしたい。
心からそう思う。
――と、感慨にふけっていたら、突然ドアの開く音が。
俺としては「誰か入って来たのか」程度の認識だったが、どうにも周りの学生たちの様子がおかしい。なんだか張り詰めた空気になっている。
もしかしたら、どこぞのお偉いさんが視察に来たのかな、と思って顔を上げると、そこには多くの取り巻きを引き連れた意外な人物が。
「っ!? リリア様!?」
「あら、久しぶりね、バレット」
ティーテの母親であるリリア様だった。
「今日はどうされたんですか!?」
俺が慌てて駆け寄ると、リリア様は優雅に笑いながら答える。
「明日はティーテの晴れ舞台でしょう?」
そうだった。
リリア様は娘のティーテをとても可愛がっている。
最近ではそのティーテと俺の関係が良好になってきたということで、病弱だった体質が改善され、だいぶアクティブになった。
「ティーテが綺麗なドレスを聞いては、黙って見過ごすわけにはいきませんもの」
「さ、さすがです、リリア様」
「……そういうあなたも、明日が楽しみなのではなくて?」
「もちろんです!」
俺とリリア様は固い握手を交わす。
……って、なんか前にもこんな流れあったな。
ちなみに、父親であるアロンソ様も来る予定だったらしいが、急用ができて泣く泣くキャンセルしたらしい。たぶん、今、血の涙を流しながら公務に勤しんでいるのだろうな。
「そういえば、あなたも武闘大会に参加するそうですね」
「えぇ」
「武闘大会……思い出すわね」
そう言って、リリア様は遠くを見つめる。
あ、これ、思い出を語るパターンだ。
「あの頃――まだ学生だった私は、そこで初めて主人に会ったの」
「えっ? 武闘大会が出会いの場所だったんですか?」
「そうなのよ。私は病弱だったから参加なんてできないけど、せめてどんな人が戦っているのか見たくて会場に来たの」
そこでアロンソ様の戦いぶりを見て、惚れ込んだらしい。
病弱で、激しい運動ができなかったリリア様からすれば、武闘大会で華麗に活躍するアロンソ様は相当輝いて映っただろうな。
「ところで、ティーテの姿が見えないようだけど……」
「ティーテでしたら、今ドレスの試着を――」
「バレット~♪」
俺がティーテのことを伝えている途中、まさに話題の渦中にあったティーテ本人がやってくる。――しかも、ドレスに着替えた状態で。たぶん、俺に見せるためにわざわざ来てくれたんだろうなぁ。
っと、そうだ。
リリア様のこと忘れていた。
「ちょうどティーテが来たみたいですよ、リリア様」
「…………」
「リリア様?」
突然黙ってしまったリリア様を心配して歩み寄ろうとした瞬間、リリア様は卒倒。
「!? リリア様!?」
「えっ!? お、お母様!?」
もしや、体調が悪化したのか!?
取り巻きたちも騒ぎ始めた頃、
「娘が……可愛すぎる……」
か細い声で、そう呟くリリア様。
……うん。
とても元気そうで何よりだよ。
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