第118話 嫌われ勇者、鍛える
※今回はちょっと番外編的な小話!
武闘大会への参加が決まってから、俺は自らの鍛錬方法を見直すことにした。
ジャーヴィスのこと。
学園の裏側で起きている事件のこと。
それらを解決に導くために今の俺ができることをやる。
そう考えた時、真っ先に思い浮かんだのが修業だ。
そのため、この分野におけるスペシャリストに相談をしようと思い立ち、早速オファーをかける。
その人はふたつ返事でOKをくれた。
今日はティーテが生徒会の打ち合わせで遅くなるというので、その人にたっぷりと稽古をつけてもらうことにしよう。
授業後。
俺は室内演習場の使用許可をもらい、剣を使わない格闘戦の鍛錬に挑んだ。
その指導役は――
「いつでも来てください、バレット様!」
「いくぞ、プリーム!」
メイド三人衆のひとり――プリームだった。
「はあっ!」
俺は気合を入れてプリームへと飛びかかる。
しかし、こちらのあらゆる攻撃手段はすべて難なくかわされてしまった。そして、
「にゃっ!」
鋭く放たれた拳が、俺の鼻先数センチのところで止まる。
「うおっ!?」
たまらず尻もちをついてしまった。
俺の完敗だ。
「やっぱり強いなぁ、プリームは」
「でも、聖剣を持ったら私なんてすぐ倒されちゃいますよ」
「まあ、今回は聖剣を使わないでどれだけ強くなれるかってところをテーマにしているからなぁ……それでいうと、今の戦い方は落第点だ」
「で、でもでも、人間と獣人族ではそもそも身体能力に差が――」
「分かっているよ。……だけど、俺はそれを乗り越えたいんだ」
聖剣を極めるだけでなく、俺自身がもっと心身ともに強くならないといけない。
「よし! もういっちょ頼む!」
「はい!」
「――っと、その前に……プリーム」
「はい?」
「ちょっと着替えてきてくれないか?」
「? 着替え?」
「ああ」
俺はプリームへ鍛錬用の衣装へ着替えてほしいと依頼する。最初は意味がよく分かっておらず、首を傾げていたプリームだが、俺からの願いとあっては無下にすることもできず、大人しく従ってくれた。
俺が着替えを要求した理由はただひとつ……気が散る。
まず、プリームはメイド三人娘でもっとスタイルが凶悪だ。
そして、他のふたりと同じようにメイド服を自分用にアレンジしているのだが、動きやすいからという理由で露出が多めとなっている。繰り返す。露出が多めとなっている。
その格好で激しく素早く動くものだから……その……いろいろ見えるし、いろいろ揺れるんだ。
本人はその辺おおらかというか、無頓着というか……緩いのだ。
そのため、対照的にスラッとした体形のレベッカは、たまに物凄い形相でプリームの胸をガン見している。マリナの方はあまり気にしていないようだが、一緒にメイドとしての仕事をしている際、その揺れっぷりを目の当たりにして「凄っ……」と素のリアクションを取ることがあった。
ティーテ以外の女性に興味はないが、さすがにあれは目に毒だし、プリームにその辺の意識をハッキリ持ってもらわないと、この先大変な事態に発展するかもしれない。
もしかしたら、原作の女好きバレットはプリームのそうした無知な部分につけ込んで――
「!? い、いかん! しっかりしろ、バレット・アルバース!」
邪念を振り払うように俺は腕立て伏せを始めた。
……どこかで滝行でもしてこようかな。
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