第117話 嫌われ勇者、婚約者に相談する
「ジャーヴィスの悩み、ですか?」
その日の夜。
いつものように、談話室で課題に取り組む俺とティーテ。それが終わり、マリナの淹れてくれたお茶を飲みながらまったりしている時間帯に、俺は朝の鍛錬の際に感じたことをティーテへ告げた。
「直接本人がそう言ったわけじゃないんだ……まあ、武器の変更の他に、まだ何か悩みがあるみたいで……」
「うーん……あっ、そういえば」
「! 何か心当たりがあるのか、ティーテ」
「この前、最近ちょっと下着がきつくなったって――」
ティーテは会話の途中で口を手で覆う。
……うん。
その行為に至った原因は分かっている。
「い、今のは言ってはいけないことでした……」
バツが悪そうに言うティーテ。
まあ、ジャーヴィスに限らず、誰だって体型は気にするよ。特にジャーヴィスの場合は女子であることを隠している以上、あまり成長してしまうと隠し切れないところが――
「! まさか……」
成長。
その言葉が、頭の中で弾けた。
もしかしたら、もう誤魔化していけないと感じているのか?
……って、ちょっと待て。
あまり憶測で話を進めていくのも危うい。
やはりここは、ジャーヴィス本人に「難しいテーマ」とやらの内容を聞いた方がいいと思うな。
「ありがとう、ティーテ。やっぱりティーテに相談して正解だったな」
「えっ? そ、そうですか? あまりお役に立てなかったような……」
「そんなことないよ」
明日の授業後、武闘大会参加者は一度ウォルター先生のもとへ集まることになっている。
その後なら、落ち着いて話ができるだろう。
ジャーヴィスは……一体何に悩んでいるというのか。
できれば、俺の心配は杞憂であってほしいものだ。
◇◇◇
翌日の授業後。
生徒会の仕事を手伝いにいくティーテを見送った後、俺は指定された特別教室へ向かう。
その道中で、
「バレット様!」
「! ラウルか」
日直の仕事を終え、同じく特別教室へ移動する途中のラウルと合流。
そのままなんでもない世間話へ。
「ラウルはパートナーを誰にするつもりなんだ?」
「それなんですが……クラウス様が張り切っていて」
「聖騎士がパートナーか……こいつは手強そうだな」
面倒見がいいというか、なんというか……でも、確か原作でもそんなキャラだったな、クラウスさん。
そうこうしているうちに目的地に到着。
教室内にはすでに複数人の学生が待機しており、俺たちが到着してからも何人かやってきてウォルター先生の到着を待っている。
その中にはジャーヴィスの姿もあった。
「やっぱり君も選ばれていたか、ジャーヴィス」
「学園騎士団の人間が三人か……もしかしたら、僕らの中で誰かが戦い合う可能性も十分にあり得るね」
「そ、その時はよろしくお願いします」
ここでもまた穏やかな会話が繰り広げられる。
すると、そこへ、
「おっ? 全員いるな」
武闘大会担当のウォルター先生が入室。
先生は俺たちを席に戻るよう指示を飛ばし、今回の大会についての概要を説明し始めた。
「基本的な内容については例年と変わらない。ただ、今年は安全対策がより厳重なものとなったため、学生諸君には不便な思いをさせてしまうシーンも出てくるだろうが、了承してもらいたい」
そういえば、前期はいろいろあったからな。
学園としては、開催する以上、徹底した安全対策が求められるだろう。
正直、中止という選択肢もなかったわけじゃないのだろうが……噂によると、アビゲイル学園長を失脚させようと目論む輩が裏で一枚噛んでいるのだとか。
まあ、その辺は噂の範疇を出ないが、警戒するにこしたことはない。
説明はおよそ三十分で終了。
ルールとしては例年通り。
選ばれた十四人の学生による一対一の真剣勝負。
合計七試合が組まれることになっており、その組み合わせや当日の詳細な動きについては後日改めて説明があるらしい。
ラウルはユーリカと約束があるようなので、俺も生徒会室に顔を出しておこうかと腰を上げた時――ふとジャーヴィスと目が合う。
「是非とも君と戦いたいものだ」
「! あ、ああ……」
その瞬間、ジャーヴィスは悲しげな表情を見せた――が、それはほんの一瞬のことで、すぐにいつものジャーヴィスに戻っていた。
……やはり、何かあるようだな。
マリナたちに少し探ってもらうとするか。
なんとか無事に終わってもらいたいな、学園祭……
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