第115話 学園祭へ向けて
レイナ姉さんとアベルさんの仲が大きく進展するという素晴らしい結果に終わった学園騎士団の休日遠征。
そんな充足感に包まれた休み明け。
学園は色めきだっていた。
理由は単純明快。
いよいよ学園祭が間近に迫って来たからだ。
「楽しみですね、バレット!」
「ああ!」
授業が終わり、生徒会室へ向かう俺とティーテの間で交わされる話題も、自然と学園祭のことになる。
この学園祭は、アストル学園に通う学生にとって最大のイベントとなる。
だから、熱の入りようも段違いだった。
ちなみに、この世界での学園祭は社会経験の一環として出店も許されている。また、クラス単位ではなく委員会単位での活動が義務付けられており、毎年生徒会を中心に多くの委員会が参加しているという。
ティーテは緑化委員のメンバーだが、生徒会にも所属しているためそちらの方に顔を出すという。
というのも、緑化委員は毎年学園にある庭園を来場した親御さんや来賓である貴族たちに案内するというのが恒例になっているらしく、そちらはすでにメンバーを確保しているので大丈夫だと委員長であるハンス先輩から伝えられたらしい。
……ていうか、それって前に見せてくれたメイド服を着てどうのこうのってヤツだよな?
あの時のティーテは素晴らしかった。まさに永久保存版ってヤツだ。この世界にカメラがないのが惜しまれる。
だが、ティーテによると、あの衣装案は中止になったらしい。
理由を尋ねると、意外な事実が発覚する。
「実は……中止を申し出たのは私なんです」
「えっ? どうして?」
「その……バレット以外の前でああいう格好をするのは抵抗があるというか……」
「つまり、俺以外にあの格好は見せられない、と」
俺が念を押すように言うと、ティーテは顔を真っ赤にしながら頷いた。
なんといじらしいことか!
「それで、代替案としてドレスの品評会を開くことにしたんです」
「ドレスの品評会?」
「はい。ドレス作りを学ぶ委員会があって、そこの学生たちが作ったいくつかのドレスを見てもらう予定なんです」
つまりはファッションショーみたいなものか。
まあ、同じように見られるイベントではあるが、ドレスなら舞踏会で割と披露しているし、本人の気持ち的にだいぶ楽なのだろう。
「バレットはどうするんですか?
「俺は姉さんに頼まれて会場設営とかいろいろと。あ、でも、当日の午後からは時間を空けてくれるらしいから……一緒に見て回らないか?」
「是非!」
即答。
本当に、初めて会った時とは変わったよなぁ。
ティーテの変わりぶりに感心していると、
「おっ! ちょうどいいところに来たな、バレット」
ちょうど教室から出てきたウォルター先生と出くわした。どうやら先生は俺を捜していたようだけど……
「俺に何か御用ですか?」
「うむ。武闘大会の参加について、意思を聞きたかったんだ」
「武闘大会って……」
「なんだ、忘れたのか? 国王陛下や騎士団長の前で、選抜された学生たちによる模擬試合のことだよ」
「あぁ……」
うっすらと記憶している。
「去年は断ったが、今年はどうするのかと思ってな。ちなみに、教師陣はおまえの参加を熱望している。特にここ最近は目覚ましい活躍をしているからな」
「そうですね。俺としても――」
快諾しようと思ったが、確か武闘大会は午後からだったはず。
たった今、ティーテと学園祭を見て回ろうと約束したばかりなのに、それを破るようなマネはできない。
俺が答えあぐねている様子を見て、横に立っていたティーテがこんな提案をウォルター先生に投げかける。
「あの、ウォルター先生」
「うん?」
「確かこの武闘大会には……サポート役の学生をひとりつけられるんですよね?」
「そうだが……なるほど。分かった。そのように手配しておこう」
「ありがとうございます」
ふたりの間で結論は出たようだが……話の流れからして、ティーテが俺のサポート役に回るということか?
「ティ、ティーテ?」
「これでバレットの活躍を一番近くで楽しむことができます♪」
や、やっぱり、そういうことか。
まったく、すっかりたくましくなっちゃって……。
まあ、でも、これで当日は負けられなくなったな。
誰が相手だろうと、ティーテがセコンド役をやる以上、絶対に勝たなくては!
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