第114話 ジャーヴィスの想い
突発的に発生したワイバーン襲撃イベントは、俺たち学園騎士団によって見事突破することができた。
その日の夜に行われた宴会はとてつもなく盛り上がり、俺たちもその場のテンションに任せて大いに弾けた。
ちなみに、宴会中、姉さんはずっとアベルさんに寄り添っていた。
アベルさんも、お酒が入っているからなのか、とても熱心にいろいろと話しかけているようだ。いつもの落ち着いた、大人の男性といった雰囲気を醸し出しているアベルさんらしからぬテンションではあったが、当の姉さんはとても嬉しそうに話をしていた。アベルさんは姉さんとの年の差を気にかけていたようだが、あれだけ見せつけられたら合間に割って入ろうなんて気は起きないだろう。
一方、こちらもこちらで盛り上がりを見せていた。
「ラウル、これとってもおいしいわよ」
「ありがとう、ユーリカ」
ユーリカとラウルはもう自然にいちゃついている。
当初のぎこちなさはどこかに消し飛んでおり、今も普通に「あーん」とユーリカがラウルへご飯を食べさせている。
一方、俺はというと、
「バレット、このお肉おいしいですよ♪」
「ありがとう、ティーテ」
負けてはいられないと対抗心を燃やし、ティーテに「あーん」をしてもらっていた。
これは俺が強要したわけじゃない。
ティーテが進んでやってくれているのだ。
「どうですか?」
「おいしいよ。きっとティーテが食べさせてくれたから何倍もおいしく感じるんだろうな」
「も、もう! おだてても何も出ませんよぉ……」
やってから恥ずかしさに気づいて赤くあるティーテ。天使かな? 天使だったわ。
――って、浮かれている場合じゃなかった。
あんまりやりすぎるとジャーヴィスが……
「どこへ行ったかな?」
ティーテの思考復活までもうしばらくかかりそうなので、俺はジャーヴィスを捜してみることに。何せ、ジャーヴィス以外は恋人関係にあるわけだから、こういった場所だとどうしてもなりがちだ。
一旦ティーテをメイド三人衆に預けて辺りを捜し回っていると、宴会場から少し離れたところでひとりたたずむジャーヴィスを発見する。
「こんなところにいたのか」
声をかけると、ジャーヴィスは俺の顔を見て意外そうな顔をする。
「君こそこんなところで何をやっているんだい? ティーテは?」
「今ちょっとダウンしていてな」
「なるほど……大方、料理を『あーん』させたはいいが、その恥ずかしさに気づいて思考停止してしまったという感じかな」
「なんだ、見ていたのか」
「……適当にいったつもりだったけど、まさか正解だったとは」
呆れた様子で呟くジャーヴィス。
それにしては的確に捉えすぎだろと思うが。
まあ、ともかく、気を取り直して、
「悪いな。テンションが上がって、その……」
「うん? ――ああ、君たちのいちゃつきはもう見慣れたから平気だよ。それに……これはレクルスト家に生まれた僕の宿命でもあるからね」
そこで、俺はハッとなる。
姉さんとアベルさん。
ラウルとユーリカ。
そして、俺とティーテ。
みんな救われたと思っていたが――ジャーヴィスはまだだ。
確かに、俺が秘密を守ることを提案し、原作のような悪行を繰り返すことはなくなった。それでも、ジャーヴィスが自分を偽っていることに変わりはない。
本人は口にしないが……中身まで完全に男へなり切れていないところや、普段の態度(裸を見られることへの抵抗とか)からしても、やはり女性として生きたいという本心が見え隠れしているように思う。
俺は、なんて重要なことを見落としていたんだ。
「な、なあ、ジャーヴィス」
「なんだい?」
「あ、いや……」
――が、今の俺にはどうすることもできない。
そもそも、ジャーヴィスの本心を聞かなくちゃいけないんだよな。
果たして、ジャーヴィスは何を思うのか……。
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