第112話 舞い降りた者は……
「あ、あれは……」
上空から真っ直ぐこちらに向かってくる飛行体。
その正体は、
「!? ワ、ワイバーン!?」
獰猛そうなドラゴンの頭。
猛禽類を彷彿とさせる鋭い爪。
両腕の部分は大きな翼となっており、全身は緑色をしていた。
のどかな田舎町に似つかわしくない凶悪な存在。
なぜこのタイミングでやってきたのか――モンスターにそんな事情を尋ねたところで無駄骨だろうが、思わずそんな疑問が脳裏に浮かぶくらいパニックとなっていた。
「っ!?」
一方、まさかの大物出現に、いつも冷静なアベルさんも硬直。ティーテに至っては声さえ発しなくなってしまった。
「アベルさん!」
「――ぐっ!?」
俺が声をかけたことで我に返ったアベルさん。
すぐに武器を構え直すが――直後、ワイバーンの羽ばたきによって生じた強風が俺たちを襲った。
「きゃあっ!?」
「ティーテ!」
身軽で力のないティーテでは、この強風を耐えきれない。
そう判断した俺はすぐにティーテのもとまで全力ダッシュ。そのまま抱きかかえて道路脇の森へ身を潜めた。
「バ、バレット!?」
「ティーテ、君はここにいるんだ」
「そんな! 私も戦います! 私だって、学園騎士団のメンバーです!」
必死に訴えてくるティーテ――だが、その肩は恐怖から震えていた。
「ありがとう、ティーテ。だけど、君の持つ力は後方支援のものだろう?」
「あっ……」
どうやら、興奮のあまり自分の役割を忘れていたようだな。
ティーテは聖女だ。
その最大の特徴は回復魔法にある。
外傷にとどまらず、病気、状態異常、呪術などなど――その効果は多岐に渡る。
まあ、つまり、俺があの凶悪なワイバーンと戦う係で、ティーテは負傷した際に俺を心身ともにバッチリ癒してくれたらいい。
「戦うのは俺たちに任せてくれたらいい」
「バレット……」
「必ず勝って帰るから、ちょっと待っていてくれ」
それだけ告げると、俺は森から出てワイバーンと対峙する。
大きな翼で羽ばたいたせいで、民家や風車は吹き飛ばされていた。おまけに炎まで吐けるらしく、火災が発生している家屋もあった。
アベルさんたち騎士団も応戦しようとするが、相手は遥か上空を漂う
「野郎……」
聖剣を握る手に力が入る。
俺の魔力を注ぐことによって、聖剣は輝き始める。
ラウルがクラウスさんに弟子入りをして鍛えているのに対し、俺はティーテと一緒に修行している。
前にテシェイラ先生が言っていたが、聖剣は人を試す。
無条件に凄まじい魔力を与える代わりに、その者が正しく力を使えなかった場合は、持ち主に災いすらもたらしかねない。
原作版のバレットはまさにその災いの直撃を受けたって感じだった。
「キシャアアアアアアアアアアアア!!」
曇天を引き裂く咆哮。
我が物顔で町を蹂躙するヤツを――これ以上野放しにはできない。
「いくぞ!」
目には目を。
歯には歯を。
風には風で対抗する。
俺は聖剣へ込めた魔力の属性を風に変えると、ありったけの力で剣を振った。
すると、ワイバーンの羽ばたきにも負けない強風が発生。敵目がけてまっすぐに飛んでいく――が、もちろん、これはただの風じゃない。
「グギャアアアアアアアアア!」
ただの風と思ったワイバーンだが、それに包まれた途端、ヤツの体はズタズタに引き裂かれていく。風の刃は硬い鱗さえはねのけ、甚大なダメージをワイバーンへともたらした。
戦闘はこちらが優勢に進めている。
だが、次の瞬間――ワイバーンは俺に向かって炎を吐いた。
「ちっ!」
その勢いと威力はこちらの想定を上回っている。
これは……回避しきれそうない。
すぐに水魔法へ切り替えて、なんとか防御しようとしたら、
「バレット様!」
遠くから聞き慣れた女の子の声がした。
今の……ユーリカか?
思わず振り返ろうとすると、俺の全身を包まんばかりの勢いで飛んできた炎は消えてしまった。
「な、なんとか水魔法が間に合いました……」
「気を抜いている暇はないよ、ユーリカ」
「ラウルの言う通りだ。敵はもう次の行動に移っている」
現れたのは、
「みんな!?」
ユーリカ、ラウル、ジャーヴィスの三人だった。
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