第108話 勝負の時

 姉さん手作りの差し入れを持って、将来の義兄さんであるアベルさんたちが警備を行っている村へと向けて出発。


 当初、ついていくのは俺とティーテだけだったが、学園長の唐突なお達しによって学園騎士団全員でアベルさんのもとを訪れることとなった。

 というわけで、今は大きめの馬車にパーティー五人が揃って乗っている。


「き、騎士団の仕事か……」

「うぅ、緊張するなぁ」


 将来は騎士団入りを目指すジャーヴィスとラウルは緊張の面持ち。


「しっかりしなさい、ラウル。気持ちで負けてちゃダメよ」

「ユーリカ……」


 恋人のユーリカに励まされて持ち直したラウル。

 しかし、ジャーヴィスの場合は……


「ジャーヴィス、そう気負うな。いつも通りの君を見せればいい。そうすれば絶対にうまくいくから」

「バレット……」


 瞳を潤わせてこちらを見つめるジャーヴィス。

 すると、


「ダメですよ、ジャーヴィス様」


 ユーリカが注意を促す。

 その内容は――


「バレット様に優しい言葉をかけられたときのジャーヴィス様、完全に女の子の顔をしていましたよ?」

「うえっ!? ……そうかな」


 ユーリカからの指摘を受けたジャーヴィスは大きく取り乱す。

 ……最近、ジャーヴィスの仕草が女性っぽくなりつつあるような気がする。

 彼女の場合、外見こそ男性を意識しているが、心根はあくまでも女性。もうそろそろ、それを誤魔化すことが困難な年齢になってきているのかもしれない。


 原作だと、完全に男としか見られなかったが……何か、大きな心境の変化でもあったのだろうか。だとすれば、それには間違いなく俺やティーテが関わっている。やっぱり、風呂でバッタリ遭遇イベントが引き金になっているのかな?


 ――それより、さっきのユーリカの言葉は誤解を生まないか?

 恐る恐るティーテの顔を窺うと、


「バレットは誰にでも優しいですからね♪」


 そこには天使がいた。

 あ、違う。

 ティーテだ。

 まあ、ティーテ=天使でもなんら問題はないのだが。



 ――ここまでのやりとりで分かる通り、本人の申し出もあって、同じ学園騎士団のメンバーであるラウルとユーリカにはジャーヴィスの性別について正しい情報を伝えてある。


 最初は困惑していたが、ふたりとも受け入れてくれて、秘密を守るために協力してくれるという。


 ……そういえば、原作ではどうだったんだろうな。


 バレットはジャーヴィスの正体を知り、それを威しのネタにして自分の側近としていた。その際、同じ勇者パーティーにいた原作版のラウルとユーリカは、その事実を知っていたのだろうか。


「? どうかしましたか、バレット様」

「!? い、いや、なんでもないよ、ユーリカ」


 いかんいかん。

 また悪い癖が出た。


 その辺のことはどうだっていい。

 今はこうして五人が仲良く、健全に勇者パーティーとして成長しているんだから。


 その時、ふとティーテの目が合った。


「レイナさん、うまくいくといいですね」

「ああ……」


 大丈夫。

 きっとうまくいく。

 あれだけ頑張ったんだから。




 馬車に揺られること数時間。

 たどり着いたのは超がつくほどの田舎町であった。


「ほ、本当に凄い田舎だな……」


 田舎とは聞いていたが、正直、ここまでとはって感じだ。

 見渡す限り小麦畑。

 遠くには風車も見えるし、牛や馬を放牧している場所もある。


 ……疑問だ。


 アベルさんは騎士団でも将来を期待される人物。

 それほどの人が、なぜこんな戦闘とは無縁とも思える場所を警備しているのか。


 ……まさか、左遷されたとかじゃないよな?

 と、そこへ、


「やあ、みんな! よく来てくれたね!」


 問題のアベルさんが部下を引き連れてやってきた。

 さあ、姉さん――勝負の時だぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る