第109話 不穏な展開
※年内投稿はこれで最後になります。
年末年始は作者が書籍化作業に集中するため、次回の投稿は1月5日と少し間があいてしまいます。ごめんなさい<(_ _)>
なかなか報告をできていませんが、書籍化作業は順調ですよ!
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その場にいた全員が息を呑む。
のどかな景色に似つかわしくない緊張感に包まれた。
「え、ええっとぉ……何かな?」
さすがにアベルさんも俺たちが放つ異様なオーラに気づいたようだ。
――そして、その中心がレイナ姉さんになることも。
「レ、レイナ……?」
「あ、あの……こ、これを!」
姉さんは過去に例がないくらい顔を赤く染め、手にしていた物を差し出す。それは、ティーテやマリナたちと一緒に作った例のお菓子。それを、可愛らしい小さなバスケットに入れていた。よく見ると、メッセージカードまでついている。いつ書いたんだ?
「こ、これは……?」
「そ、その……差し入れです。いろんな人に手伝ってもらいながらですが、私が作ってみましゅた」
あ、最後噛んだ。
でも、伝えたいことはしっかり口にできていた。
それを受け取ったアベルさんはニコリと微笑み、
「君が作ったのかい? いやぁ、嬉しいなぁ」
ウキウキのアベルさん。
そりゃそうだ。
アベルさんは姉さんを溺愛している。
姉さんはその辺ちょっと鈍感なところがあるから気づいていないようだけど、アベルさんはもうゾッコンって感じだ。
……ただ、原作でのアベルさんはその姉さんへの海より深い愛情が災いし、命を落としてしまう。
学園生活終盤、悪行を続けるバレットをどうにかして改心させようと悩む姉さんに、面倒見のいいアベルさんは「将来は俺の義弟になるんだから」と手伝いを名乗りでる。
その後、自身の所属する隊の遠征に同行させて精神を鍛え直すつもりのようだったが……結果として、バレットの勝手な行動が原因で隊は窮地へと陥り、しかも元凶のバレットはアベルさんを見捨ててひとり助かった。
その後、アベルさんの死因がバレットにあるという事実が、主人公ラウルの手によって暴かれてしまい、それを知った両親に勘当を言い渡される。さらに、姉さんは真実を暴いてくれたラウルへ想いを寄せて――
「…………」
いや、これ以上はやめておこう。
差し入れをもらって嬉しそうにしている姉さんとアベルさん。
それに、成功したことをみんなと喜び合っているラウル。
よかった。
俺は思わず安堵のため息を漏らす。
こっちの世界なら、姉さんとアベルさんは幸せになれそうだ。
その後、俺たちは騎士団の詰所へと案内され、そこで休憩をすることに。
アベルさんは姉さんの作ったお菓子を、俺たちはティーテとユーリカが作ったお菓子をいただくことに。
学園OBでもあるアベルさんは、俺たちに今の学園生活について聞いたり、俺たちの方からも、特に騎士団入りを目指すジャーヴィスやラウルは熱心に質問をしていた。
その時、
「アベル隊長!」
ひとりの若い兵士が詰所に駆け込んできた。
「どうした、ディック」
「そ、それが……」
ディックと呼ばれた若い兵士は、何やらアベルさんに耳打ちをする。
次の瞬間、アベルさんの表情が一変。
「……すまないが、お茶会はここまでだ」
さっきまで楽しそうに会話をしていた時とはまるで違う低い声。
よく見ると、額には汗が浮かび上がっていた。
……なんだ?
こんなのどかな田舎町で、そんなに緊張する事態が起きるのか?
「アベルさん……何かトラブルですか?」
さすがに姉さんも心配になって声をかける。
だが、アベルさんはいつものようにニコッと笑って答えた。
「心配はいらない。周辺を見回っていた兵が気になる物を見つけたというので、ちょっと確認をしてくる」
軽い感じで言うアベルさん。
しかし、俺は感じ取っていた――その表情の裏にある緊張感を。
「アベルさん」
そう思うと、俺の体は自然に動いていた。
「どうした、バレット」
「俺も一緒に行きます。――行かせてください」
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