第107話 嫌われ勇者、お菓子作りを見学する

【お知らせ】

カクヨムコン6への参加作品として、新作を投稿しました!


「絶対無敵の解錠士アンロッカー ~ダンジョンに捨てられたFランクパーティーの少年はスキルの真価を知るSランクパーティーにスカウトされる~」


https://kakuyomu.jp/works/1177354055151436608


《ざまぁ》+《主人公最強》な作品です!


応援よろしくお願いいたします!<(_ _)>



…………………………………………………………………………………………………



 翌日。


 急遽開催されたレイナ姉さんのためのお菓子作り教室。

 ティーテとうちのメイド三人衆が講師となる予定だったが、当日になって新たにもうひとりスペシャルゲストが参加することに。


「わ、私もお菓子作りを覚えたいです!」


 ティーテの専属メイドであるユーリカだった。

 まだまだメイド歴の浅い彼女は何もかもが勉強の毎日。

 このお菓子作りもその一環――というのは建前で、


「ラ、ラウルにあげようと思って……」


 誤解が解け、交際を始めたばかりのユーリカとラウル。

 なるほど……ユーリカにとっては、付き合い始めて最初のプレゼントってことになるわけだな。そりゃ気合も入るよ。


 ちなみに、場所は学生食堂でキッチンや食材を借りる許可が下り、「やるからには全力でやるといい」という学園長のご厚意に甘えることに。


 本日のお題はクッキー。

 差し入れのお菓子としては定番中の定番。

 そこまで高難易度ってほどでもないし、何より経験豊富なメイド三人衆がいる。

 特に、お菓子作りに関してはマリナが超一流だ。

 俺とティーテが勉強している時に差し入れてくれたクッキーはめちゃくちゃうまかったからなぁ。こと料理に関しては、間違いなく三人衆随一の実力を誇る。

 とはいえ、レベッカとプリームだって負けていないし、ティーテも最近はレパートリーが増えたと話していた。

 これだけの経験者がいれば安心だろう。

 


 ――と、いう俺の考えは甘かった。


 

 姉さんはなんていうか……神がかり的な不器用さだった。

「なぜそうなってしまうのか」という理論的思考を根底からひっくり返す奇想天外な珍プレーの数々……まあ、そもそも、貴族の中でもトップクラスの地位を築くアルバース家の令嬢でもあるわけだから、別に料理が壊滅的にできなくても問題はないんだ。


 しかし、姉さんは愛する婚約者のアベルさんへ手作りの差し入れを送るべく、鼻にクリームをつけ、額から汗を流しながら料理を続けた。

 ドアからこっそりと様子を窺う姉さん専属武闘派メイドたちが心配そうに見つめる中、とうとう、


「やった! 完成したぞ!」


 熱を帯びる魔鉱石が埋め込まれたオーブンから取り出された焼き立てのクッキーを見た瞬間、姉さんは勝ち鬨をあげた。


 形はいびつだが、焼き加減は十分。匂いもいいし、これは成功かな?


「や、やりましたね、レイナ様」


 一方、メインで指導役をしていたマリナはすっかりやつれてしまった。

 ……お疲れ様です。

 あとで「今日はもう休んでいいよ」と伝えておくか。たぶん、三日分くらい働いたんじゃないかな。


「こっちもできました!」

「おいしそうにできたね、ユーリカ」

「はい! これもティーテ様がいろいろと教えてくれたおかげです!」

「そんなことないよ。ユーリカのラウルを想う気持ちがそのまま成功につながったと思うわ」

「そ、そんな……えへへ」


 こっちはこっちで青春をしているな。

 なんかもう眩しくて直視できない。


 こうして、差し入れ作戦の第一段階は終了したのだった。


  ◇◇◇


 翌日。


「ぐうぅ……緊張してきた……」


 姉さんは朝から死にそうな顔をしていた。

 ティーテとユーリカが「大丈夫ですよ!」と励ましているが……向こうに到着するまでの間に復活できるかな?


 それはそうと、さらに驚くべきことが起きていた。


「我々が乗る馬車はあれでいいのかい」

「そうみたいですね。荷物を積んじゃいましょうか」


 なぜかジャーヴィスとラウルがこの場にいるのか。

 すべてはアビゲイル学園長の「どうせなら学園騎士団全員で行って、王国騎士団の活動をじかに見てきなさい。私の方で使い魔を送り、向こうには知らせておくから」という発案によるものだった。


 ジャーヴィスもラウルも騎士団への入団を目標にしているので、ふたりにとっては願ってもないチャンスになるだろう。



 ……しかし、なんか波乱が起きそうな予感がするんだよなぁ。

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