第103話 嫌われ勇者、学園騎士団の団長に就任する
アストル学園が新たに創設する学園騎士団。
最近は割と静かなものだが、つい最近までは学生が狙われる事件が多く、その対処のために学生たちで結成された戦闘部隊。
――と、いうのは恐らく建前だろう。
ラウルの暴走事件や舞踏会における合成魔獣の乱入は、明らかに学園関係者が関わっていなければ不可能なものばかりであった。
学園長をはじめとする学内調査チームは、その関係者の捜索の幅を学生まで伸ばしてきたのだ。
まあ、学生のことは学生が一番詳しく知っているからな。教師も知らない学生同士のネットワークとかあるだろうし。
あと、俺が個人的に関心を寄せていたのは、原作【最弱聖剣士の成り上がり】で主人公ラウルのハーレム要員となる女性神官ミーアさんについてだ。
どうやら、彼女は俺のもといた世界でいう教育実習生のような立ちばらしかったが、ユーリカの神授の儀を終えて以降は接点がなかった。てっきり、ここからラウルと深いつながりができていくイベントがあるのではないかと思っていたが、それも特になし。これも、原作と違ってラウルとユーリカがくっついたから発生しなかったのか?
ただ、そうなると、原作では誰がユーリカに神授の儀を受けさせたのだろう。
もしかして、原作版バレットがユーリカの潜在能力を見抜いて受けさせたとか……いや、それはないな。
バレット・アルバースとは、本来読者が気持ちよく《ざまぁ》できるために生まれてきた存在で、ひねくれ倒した最悪のクズ野郎だ。そいつがあとになって実はいいヤツでしたなんてことになったら、興ざめもいいところだ。
だから、「原作版バレット実はいいヤツだった説」というのは、きっと読者に受け入れられないだろうし、作者もそのような展開には持っていかないはず。巷ではバレット復活論なんてものも囁かれていたが……マイノリティだろうな。
今の俺の生活――ティーテといちゃいちゃし、仲間と信頼関係を築き、学園騎士団の初代団長を任されるくらいの成功譚ってなったら、きっとそんなにブクマはつかないだろうな。ランキングにも載らないし、アニメ化やコミカライズどころか書籍化の話だってない。
……なんか、話がそれたな。
まあ、ともかく、これでいよいよ学園に混乱を招いた犯人捜しができるってわけだ。
必ず見つけ出してやる。
◇◇◇
学園騎士団の結成とメンバー発表は、二日後に行われる学生集会で行われる運びとなった。
そのため、俺はその集会で短いながらも団長してスピーチを任されている。
「うーん……何を言えばいいんだ?」
いつもの談話室で、俺は唸っていた。
正直、こういうの苦手なんだよな。
向こうじゃ日陰者で、こういった表舞台とは無縁だったし。
「そう難しく考えず、決意表明と考えればいいのでは?」
「なるほど!」
さすがはティーテ!
よし、その方向で考えるとするか。
「これから忙しくなりますね」
「緑化委員の仕事もあるし、ティーテは生徒会にも顔を出しているものな。まあ、生徒会については俺からレイナ姉さんに伝えておこうか?」
「ありがとうございます。……でも、しばらく活動に参加できなくなるということなら、私が直接言ってお話した方がいいと思いますから」
真面目だなぁ、ティーテは。
そういうところも素晴らしいが。
「バレットも頑張ってくださいね♪」
笑顔でそう励ましてくれるティーテ。
……なんとなく、今のティーテにチアガールの衣装を着せたい。
そしてもう一度「頑張って」と応援されたい。
そういった、俺のいた世界の衣装をこちらで再現できれば――って、何を考えているんだ、俺は……。
「まあ、何はともあれ決意としては――『ティーテは俺が守る』かな」
「と、とても嬉しい言葉ではあるんですけど……どちらかというと私も守る側になるので、ここは『学生を守る』の方が……」
「あ」
いきなり使命を忘れちゃダメだよな。
「でも、バレット様はきっとティーテ様を第一に守ろうと考えますよね?」
「当たり前じゃないですか、プリーム」
「プリームもマリナも失礼ですよ」
部屋の片隅で、うちのメイドたち三人がお茶を飲みながら駄弁っていた。
彼女たちも随分とフランクになったものだ。俺としてはそっちの方がいいけどね。
こうして、頭を悩ませながら学園騎士団長として最初の仕事に取り組んだのだった。
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