第102話 アビゲイル学園長からの提案

「なんだってまたこんな時間に呼び出しを……」


 自室に戻るなり、学園長室へ呼び出された俺は、ぶつくさと文句を垂れながら学園長室を目指していた。


 ……そういえば、この世界に転生してから学園長に会うのって初めてだな。原作では存在こそ明示されていたが、その外見や人間性については詳しく語られていない――まあ、今の話自体、ラウルの回想シーンの一部っていう、いわば番外編みたいな扱いだからな。そこに出てくる登場人物は、自然と描写が荒くなる。


 学園長室のある中央校舎へと続く渡り廊下に差しかかろうとした時、


「あれ? バレット?」

「こんなところで何をしているんですか、バレット様」


 ティーテとユーリカのふたりと出くわす。


「俺は学園長から呼び出されたんだよ」

「えっ? バレットもですか?」

「その口ぶりだと……ティーテたちも呼び出されたのか」


 どういうことだ?

 もしかして……日々のいちゃつきに業を煮やした学園長が、自ら苦言を呈すために俺たちを呼んだ? ――いや、それなら、ユーリカまで呼び出されるのはおかしいか。


 呼び出された理由はハッキリしないまま、学園長室まで来ると、ちょうど反対側の廊下からふたりの人物がこちらへと近づいてくる。


「ラウル? それにジャーヴィスも」

「バレット様?」

「それにティーテとユーリカ……三人揃って何をやっているんだい?」

「私たちは学園長に呼ばれたんです」

「でも、ラウルたちがここにいるってことは……あなたたちも呼びだされたの?」

「うん。そうなんだ」

「呼びだした理由も告げずに、ね。まったく。あの学園長にも困ったものだ」


 ジャーヴィスがわざとらしくため息をつきながら言うと、ティーテとユーリカがクスクスと笑う。


 ――って、このメンツは……原作【最弱聖剣士の成り上がり】における勇者パーティーじゃないか!


 けど、その様相は原作とは遠くかけ離れたものだ。


 ここにはティーテを悲しませる者はいない。

ラウルを虐げる者はいない。

 ジャーヴィスを脅す者はいない。

 ユーリカを歪ませる者はいない。


 信頼できる仲間だ。


「? どうかしたかい、バレット?」

「! なんでもないよ、ジャーヴィス。それじゃあ、みんなで学園長室へ入ろうか」


 原作と比較して、現状に安堵した俺は先頭に立って学園長室へと入る。

 すると、



「待っていたよ、若人たち!」



 女性の声が響き渡る。

 見ると、広い部屋の真ん中に仁王立ちしている人物が。

 金髪ロールに褐色の肌。それに派手なメイク。第一印象は元いた世界のギャルって感じのこの人が――


「ようこそ、学園長室へ」


 アビゲイル学園長なのか……。

 原作だと数回のセリフがあるだけで性格はおろか外見の描写もなかった……だから想像できなかったけど、まさかこっち方面から攻められるとは。


「今日君たち五人を呼んだのは他でもない。君たちにあるお願いをしたくてね」

「「「「「お願い?」」」」」


 な、なんだ?

 まだ一言も聞いていないのに不安がよぎる。


「実は、ここ最近の事件を受けて、学生たちによる自警団――その名も《学園騎士団》を結成しようと思い立ったのだ」


 ラウルの暴走事件や舞踏会での合成魔獣襲撃事件。


 最近は鳴りを潜めているが、犯人が捕まっていない以上、この先いつ同じような事件が起きるか分からない。

 そのため、学生目線から気づいたことを調査し、また、学生たちを守るために戦う者を学生から選ぼうというのだ。


「正直、学生を守るために学生が被害に遭うなって本末転倒な結果になるという懸念もされているが……君たち五人なら、その心配もなさそうだ」


 言ってみれば、これは勇者パーティーの前身。

 もしかしたら……あるのか?

 この先に――【最弱聖剣士の成り上がり】の真エンディング。

 って、原作が完結していないどころか更新止まりっぱなしなんだからエンディングも何もないけど。


 ……まあ、ともかく。


「そのお話――お受けいたします」

「君ならそういうと思ってくれたよ。他の四人はどうだい?」


 学園長の呼びかけに、残り四人も受けることを宣言。

 初代団長には俺が就任し、副団長はジャーヴィスが務めることとなった。


 こうして、学園の平和を守る学園騎士団が結成されたのだった。

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