第101話 嫌われ勇者、感動する

「い、いよいよですね……」

「ああ……」


 この流れは確実に告白の返事!

 ついにユーリカはその決断を――


「何をしているんだい?」

「「!?」」


 背後からいきなり声をかけられて思わず叫びそうになったがなんとか耐えて振り返る。そこにはジャーヴィスの姿があった。


「うん? あそこにいるのは――」

「伏せろ」


 俺は小声でそう伝えながらジャーヴィスの手を引く。


「ど、どうしたんだ?」

「しっ! ユーリカがラウルへ返事をするみたいだ」

「えっ……?」


 事の重大さに気づいたジャーヴィスはすぐに押し黙る。


「……君たちふたりがひと気のない茂みの向こう側へと消えていったので……その……何か変なことをするんじゃないかと」

「「…………」」


 何を言い出すんだ、ジャーヴィス。

 おかげでなんか変な空気になっただろ。

 とりあえず、その空気を薙ぎ払う意味も込めて、俺はユーリカとラウルに集中する。


「今日は……この前の返事をしようと思って……」

「あ、う、うん」


 来たか。

 ラウルや俺たちの間に緊張が走る。

 ユーリカはなかなか言い出せずにもじもじとしていたが、やがて意を決し、大きく深呼吸を挟んでから語る。


「率直に言うと……嬉しかった」

「えっ!?」


 ラウルにとっては想定外の返事だったようで、声が裏返っていた。そんなことはお構いなしに、ユーリカは続ける。


「でも、私にはその告白を受け入れる覚悟がなかったの。同じ貧民街で育って身でも、あなたは才能に溢れていたから……私なんかがそばにいちゃいけないって……それで……」


 しどろもどろになるユーリカ。

 あと一歩。

 決定的なひと言があれば、最良の結果を招き入れることができる。

 ティーテとジャーヴィスも固唾をのんで見守る中、


「ユーリカ……」


 ラウルが口を開いた。


「ありがとう。改めて言うよ――僕は君が好きだ」

「!?」


 おお!

 ここで押しの一手!


「い、今のは効いたんじゃないかな」

「だと思います!」


 ジャーヴィスとティーテの鼻息も荒くなる。

 俺も、今の追加告白はよかったのではないかと思うが……さて。


「…………」


 ユーリカ、沈黙。

 まずい。

 このままうやむやに終わってしまうのか――誰もがそう思いかけた時だった。


「――――」


 何かが聞こえた。

 最初は気のせいかとも思えたが、それは明らかに人の声だった。

 耳を澄ませると、


「――も」


 わずかに大きくなった。

 さらに、


「わ――き」


 少しずつ、聞き取れるボリュームになり、とうとう、


「私も好きぃ!」


 声を震わせながら、ずっとため込んでいた感情を吐きだした。

 涙目になり、小刻みに体を震わせているユーリカを、ラウルはそっと抱きしめた。

 これでいい。

 きっと、これが最良の結果だ。

 気づけば俺たち三人はスタンディングオベーション。 

 それが原因でユーリカに見つかってしまい、彼女は熱烈な返答を見られたことへの恥ずかしさから気を失ってしまったのだった。


  ◇◇◇


「いやぁ……いいものを見せてもらったな」


 ほっこりした気分で自室へと戻って来た俺を出迎えたのは――神妙な面持ちをしたメイド三人衆だった。


「あれ? どうしたの、みんな……なんかあった?」

「バレット様……実は……」


 マリナが一歩前に出て、事情を簡潔に説明した。


「アビゲイル学園長がお呼びです」

「えっ……?」

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