第99話 神授の儀、再び

 いよいよ神授の儀当日。


 俺、ティーテ、ジャーヴィスの三人はテシェイラ先生にお願いして特別に見学をさせてもらうことになった。

 まあ、言い出しっぺは俺だし、ティーテやジャーヴィスはユーリカと親しくしていたからOKが出たんだろうな。


「頑張ってね、ユーリカ」

「だ、大丈夫でしょうか……」

「そんなに緊張しなくていいぞ」

「そうだよ。リラックスして行ってくるいい」

「は、はい!」

 

 俺とティーテ、さらにはジャーヴィスに見送られて、ユーリカは祭壇へと向かう。その先に待っているのは新米の女性神官で、原作【最弱聖剣士の成り上がり】ではラウルのハーレム要員となるミーアさんだった。


 それにしても……


「あなたがユーリカちゃんね。私はミーア。あなたの神授の儀を行う神官です。今日は協力してくれてありがとう」

「い、いえ、そんな……こちらこそ、ありがとうございます!」


 ラウルの想い人ユーリカと、のちにハーレム要員となるミーアさん。

 うーん……。

 原作での両者の扱いを知っていると、なんだか複雑な心境だ。

 肝心のラウルはいないし。

 

「では、始めます」


 そう言ったミーアさんの目の前には、例の箱があった。そこに、まずは神官である彼女が選別のための魔力を与える。これは、神の課した修練を突破した、選ばれし者しか操れない魔力らしく、誰にでも扱えるものじゃないらしい。


 それが終わると、いよいよユーリカの出番だ。


「ユーリカ……」


 心配そうに見つめるティーテ。

 その小さな右手は、俺の左手に添えられている。不安げに揺れているそれを、俺はしっかりと掴んだ。ビックリして一瞬体を強張らせたティーテだったが、すぐに受け入れてくれ、握り返してくれる。


「行きます……」


 ユーリカは事前に教わった通り、箱へと魔力を注ぐ。

 果たして、原作の通り、暁の杖を出すことができるのか。


 やがて、箱が光りだし、そして――ガタガタと大きく振動し始めた。

 これは聖剣を出した俺や、魔剣を出したラウルの時には見られなかった現象。神官サイドにとっても異例の事態らしく、ミーアさんは狼狽し、近くで見守っていた別の神官たちが箱を取り囲む。


「様子がおかしいな……」

「な、何があるんでしょうか……」


 ティーテとジャーヴィスが不安げな声を漏らす。

 次の瞬間――箱は「ダァン!」という音と共に爆ぜた。


「「「「「なっ!?」」」」」


 これにはさすがに驚いた。 

 その場にいた全員が、不測の事態に動けないでいると、舞い上がっていた白煙が徐々に薄れてきて、召喚されたアイテムが姿を見せる。


 それは紛れもなく――【暁の杖】だった。


「おおっ! これは!」

「あ、暁の杖だと!?」

「聖剣に並ぶ伝説の魔道具のひとつだぞ!」


 説明ありがとうございます。

 しかし、登場のインパクトとしては聖剣や魔剣以上だな。……というか、魔剣はその後のラウル退場劇があったり、聖剣は聖剣で転生前の原作版が仕掛けた過剰な演出があったりである意味めちゃくちゃインパクトあったけど……。

 

 それはさておき、現れた暁の杖に、周囲は騒然となる。

 ティーテやジャーヴィスも、暁の杖の名前は知っているようで、「凄い!」とか「信じられない」とか、いろいろ感想を語っていた。


 そんな中、ユーリカがそっと暁の杖に触れる。

 その瞬間、杖を覆っていた膨大な魔力のすべてが、ユーリカの中へと収束していった。つまり、杖がユーリカを主と認識したのだ。


 これには教職員も大慌て。


「ま、まさか、学生で暁の杖に認められるなどと……」

「いえ、正確に言うと、彼女は学生ではないのです」

「な、なんだと!?」


 うんうん。

 これなら編入決定も時間の問題だな。

 学園側からしても、こんな将来性ある有望な若者を放っておくわけにはいかないだろうし。


「凄いよ、ユーリカ!」

「ああ、僕も驚いたよ」

「ティーテ様、ジャーヴィス様……ありがとうございます!」

 

 感極まって泣き出すユーリカ。その瞳が、こちらへと向けられる。そして、


「バレット様も、本当にありがとうございました!」


 ひと際大きな声で、お礼の言葉を贈られる。

 俺は静かに笑みを浮かべ、「よかったな」と返す。

 とりあえず、これでユーリカの入学フラグは立った。


 あとは……ラウルとの関係改善だけだ。

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