第97話 嫌われ勇者、衝撃の出会いを果たす

【暁の杖】――大魔法使いとして名を馳せるユーリカの武器。

 その入手方法は間違いなく神授の儀だろう。


 しかし……問題はどうやって神授の儀をやってもらうかだ。

 そもそも、原作だとどういう流れになるのだろうか。その辺の詳しい描写はバッサリカットされているから分からないんだよなぁ。まあ、読者的には脇役にスポットを当て続けられるよりも、主人公(ラウル)の活躍が見たいだろうから仕方がないんだけど。


 ダメ元でテシェイラ先生に頼んでみようかな。



 授業後。

 学園祭に関係する生徒会の仕事でティーテとジャーヴィスはレイナ姉さんのもとへ。ラウルは相変わらず元気がないものの、聖騎士クラウスさんとの修行のため、不在。久しぶりにひとりで過ごす授業後となった。


 早速、テシェイラ先生のいる研究棟校舎へ向かうため、渡りを歩いていると、


「おっ! ちょうどいいところで会ったな」


 偶然にも、テシェイラ先生とバッタリ遭遇。

 しかも、口ぶりからして向こうも俺を捜していたようだ。


「こちらへ歩いているということは、私に用があったと見ていいかな?」

「え、えぇ」

「そしてズバリ、その用とはユーリカ絡みである」

「! 正解です!」


 て、まあ、昨日の今日で訪れるっていったら理由はそこしかないか。

 ……うん?

 じゃあ、テシェイラ先生が俺を捜していた理由っていうのも、もしかして――


「私もユーリカに関して君に話しておきたいことがあって」

「俺に、ですか?」

「うん。立ち話もなんだから、私の研究室へ来てくれないかい」

「分かりました」


 これはひょっとして……何かあったか?




 場所をテシェイラ先生の研究室に移して話を再開する。


「昨日、私は彼女に魔法使いとしての資質はないと断言した。――が、厳密に言うとまったく脈ナシというわけではない」

「と、いうと?」

「彼女の魔力量に関しては、問答無用でこの学園で一番なんだ」

「魔力量が!?」


 魔力の量には個人差がある。

 それが学園一って……凄くないか?

 だけど、じゃあどうしてテシェイラ先生は「資質はない」なんて言ったんだ?


「……それでも、ユーリカが魔法使いになれないんですよね?」

「その通りだよ」


 一切のためらいなく断言された。


「な、なぜですか?」

「大量の魔力を有していても、それを外へ放出することができないんだ」

「放出できない?」


 つまり、魔力をあってもそれを使うことができない、と。

 ……だからこそ、あの【暁の杖】が必要になるってわけだ。


「あの、テシェイラ先生……ユーリカに神授の儀を受けさせることは可能ですか?」

「神授の儀を?」

「はい。それだけの凄い魔力を秘めているのに使えないなんてあり得ないと思うんです。だから、何かのきっかけで使えるようになるかも、と」

「そのきっかけが神授の儀というわけか」

 

 テシェイラ先生は腕を組んで難しい顔をしていた。

 が、しばらくして、


「……なんとかなるかもしれないね」


 思いもよらぬ前向きの言葉であった。


「ほ、本当ですか!?」

「うん。実は、今この学園に新しく神官になった子が研修で滞在しているんだ。その実習の一環で神授の儀も執り行うはず」

「じゃ、じゃあ、その実習で行う神授の儀の相手をユーリカにしてもらえば!」

「あの子が神から授かるアイテムが分かる……それによっては、とんでもない魔法使いの誕生になるかも」


 よし!

 光明が見えてきたぞ!


 心の中でド派手にガッツポーズを決めていると、研究室のドアをノックする音が。テシェイラ先生が入室を許可すると、入ってきたのは今まさに話していた神官の衣装を身にまとう若い女性だった。


「おっと、噂をすればなんとやらだね」

「えっ?」

「バレットには紹介しておこう。彼女が新入りの神官で、ミーア・ロドニエスだ」

「あ、は、初めまして」

「初めまして」


 にこやかに微笑む新米神官のミーアさん。


 ――この時、俺の顔は間違いなく引きつっていた。


 なぜなら、俺は彼女の名前には聞き覚えがあったからだ。

 新入りの女性神官ミーア。

 間違いない。

 彼女は――原作【最弱聖剣士の成り上がり】において、ラウルのハーレム要員のひとりとなる人物だった。

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