第96話 嫌われ勇者、閃く

 次の日。

 相変わらずラウルのテンションはダダ下がりだった。

 ユーリカはティーテの専属メイドとして復帰間近のようだが、学生ではないため授業などへは参加しない。

 そうなると、ますますラウルとユーリカの接する機会が少なくなる。

 このまますれ違いで終わらせるわけにはいかない。

 昨日見せてもらったティーテのメイド服にかけて、なんとかしないとな。

 

  ◇◇◇

 

 ティーテとの楽しいディナータイム(学食)を終えて自室へと戻ってきた。

 もう今日はゆっくり休むとメイド三人衆に告げて、今はひとりでベッドに仰向けとなっている。

 そうなっても考えるのはやっぱりあのふたりのことだ。

 なんとかユーリカを学園に入学させられないか。 

 あらゆる手を考えたが、やはり行き着く先は「原作通り、魔法使いとしての才能を見出す」というものだった。

 しかし、原作では一体何が原因で覚醒したのだろうか。

 

 それについて、俺の心の中ではある「引っかかり」があった。

 というのも……ユーリカについて、何か忘れている気がするのだ。


 なんだったかなぁ――


「と、いけない」


 寝返りを打ったと同時に、ベッドの横に立てかけていた聖剣がガシャンと音を立てて床に落下した。


「まあ、この程度で傷はついたりしないのだろうけど……」


 慌てて聖剣を手にしてチェックするが――うん。大丈夫そうだ。


「うん? ……聖剣?」


 それが引き金だった。

 

「あっ――」


 今まで引っかかっていた部分が、スルッと紐解けた感覚。

 そうだ。

 むしろなぜ今まで気づかなかったんだろう。


「神授の儀だ!」


 興奮気味に叫んだ。



 思い出したんだ。


【暁の杖】


 ユーリカにはそんな名前をした専用の杖を愛用していた。これについて、原作では詳しくは言及されていないものの、間違いなく神授の儀で得た武器に違いない。神授の儀こそがユーリカの覚醒イベントだったんだ。


 そうと分かれば、それに合った対策をしなければならない――が、これは前途多難だぞ。

 何せ、神授の儀とは限られた時期にしかやらない神聖な儀式。

 それを、俺の意思ひとつでどうこうできるわけがない。

 

「何かいい方法はないかなぁ……そもそも、原作はどうやってユーリカに神授の儀を受けさせたんだろう」


 そこが謎だ。

後々明かされるのか、それともただのご都合主義か。

 ……後者でないことを切に祈るばかりだよ。


  ◇◇◇


 結局、名案は浮かばずに朝がやって来た。


「おはようございます、バレット」

「おはよう、ティーテ。あ、その髪飾りは初めて見るな」

「あ、これは夏のお休みの間にお母様が作ってくださったんです」

「リリア様が? もう体は元気みたいだね」

「そうなんですよ。本人も言っていたんですけど、まるで生まれ変わったように元気だっていつもはしゃいでいます」


 俺が――というか、バレット・アルバースがまともになって悩みがなくなったっていうのが大きいのかな? 精神的な負担もヤバそうだったし。


「今日の授業後は何をしますか?」

「ああ……実はちょっと寄るところがあるんだ」

「? どこですか?」

「テシェイラ先生のところ。ちょっと相談事あってね」

「ど、どんな相談ですか……?」


 なぜか不安げに尋ねるティーテ。

 まさかとは思うけど、俺が先生と密会すると思っている?

 ティーテの不安を取り除くためにも、目的はきちんと告げておいた方がよさそうだ。


「ユーリカに神授の儀をやってもらおうと思ってね」

「えっ? ユーリカにですか?」


 さすがに驚くよなぁ。

 でも、【暁の杖】は絶対に神授の儀を通して手に入れた物だと思うんだよ。


「まあ、ダメもとで頼んでみるよ」

「バレット……そこまでユーリカを……」


 いかん。

 また変な誤解をされた。


「ティーテの専属のメイドってことは、俺にとっても専属メイドに違いはない。だから、ユーリカの力になりたいんだ。年齢も近いし、学園に通うことができるようになると、きっといい友だちになれると思うんだ」


 これについては一言一句嘘はない。

 ティーテにもそれは伝わったようだ。


 ユーリカの神授の儀。

 これを実現できるかが、今後を大きく左右することになりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る