第95話 ティーテの励まし

 ユーリカ覚醒イベントがまさかの不発に終わり、傷心の俺を慰めるため、ティーテが励ましてくれるという。


 その慰めの会場はいつもの談話室。

 しかし、本日はティーテからの一報を受けたうちのメイド三人衆が厳戒態勢で周囲を見張っているため、ふたりきりで過ごせる。

 ……って、別に変な期待はしていない。

 ティーテは純粋に俺を励ましてくれようとしているだけだ。


 言い訳がましくそんなことを呟きながら待っていると、


「お待たせしました」


 部屋のドアからマリナと共に室内へ入ってきたティーテ。

 その姿に、俺は息を呑んだ。


「そ、それは!?」

「に、似合っていますか?」

 

 ティーテが袖を通していた服は、なんとメイド服だった。

 

「ど、どうして……」

「実は学園祭でやるイベントの一環で、こういう衣装を着てみないかとレイナさんが提案をされて……」


 姉さん、グッジョブ!


「ちなみに、メイド服のデザインは私が担当いたしました。ティーテ様の可愛らしさを存分に堪能していただける出来になったと思いますが」


 なるほど。

 マリナデザインか……確かに、マリナはいいセンスをしている。

 というより、うちのメイドたちって結構服装自由だよなぁ。

 基本的には同じデザインのメイド服を使っているのだろうが、それぞれ微妙にアレンジをしている。もちろん、それはプリームやレベッカも同じだ。それぞれの個性が出ていて、いい感じだと思う。


 そう考えると、確かにティーテが今来ている服は……可愛らしさを前面に押し出している。

 貴族令嬢がメイド服を着るのはいかがなものか――という無粋な声が聞こえてきそうではあるが、似合っているし可愛いから是非採用してもらいたい。


「他にも服はあったんですが、やっぱりメイド服が一番いいかなと思って」


 どうやら、服装は他にもいくつか用意されており、その中からあえてのチョイスらしいが……。


「バレットが好きそうでしたし」

「えっ!? そうなの!?」

「? 違いましたか?」

「い、いや、大好きだよ! 俺、メイド服大好き!」

「ならよかったです♪」

 

 そうか。

 メイドたちの服のアレンジについて自由にしていたのは、バレット自身の意向があったのかもしれないな。服を大量に持ち込もうとしていたり、お洒落な一面はあった。これについてはバレットの唯一といっていい功績なのかもしれない。


「それに、マリナさんたちと同じメイド服を一度着てみたかったですし」

「!?」


 マリナが口元を手で押さえて視線を逸らす。

 ティーテのあまりの愛らしさに、鼻血でも出たか?


「というわけで、今の私はバレットの専属メイドさんです。なんでも命令してください」

「なん……でも……?」


 思わずその言葉に反応してしまった。

 ……落ち着け、バレット・アルバース。

 ティーテの言う「なんでも」は俺の考える「なんでも」とまったくベクトルが異なる。あくまでも純粋な好意だ。

 後ろでマリナが「行け!」みたいな視線を送ってきているが無視。というか、マリナのいる前で言えるわけないだろ。


「じゃ、じゃあ、コーヒーをもらおうかな」

「かしこまりました、ご主人様!」


 深々と頭を下げてコーヒーを取りに部屋を出るティーテ。

 マリナが盛大にため息をついているけど無視。


 しばらくして、


「お持ちしました」


 コーヒーを淹れて戻ってきたティーテ。

 その味は、


「! うまい!」

「ほ、本当ですか? よかったぁ……」


 ホッと胸を撫で下ろすティーテだが……お世辞貫で上手に淹れてある。


「すべてはバレット様への愛が成せる味ですね」

「はい♪」

「こんなおいしいコーヒーがずっと飲めるなんて……よかったですね、バレット様」

「あ、ああ」


 喜び合うマリナとティーテ。

 しかし……そうか。

 俺はこのコーヒーをこれからずっと飲み続けられる――それはつまり、ティーテとずっと一緒にいられるということだから。


 うん。

 その事実を噛みしめるだけで、頑張ろうって気になれる。


「ありがとう、ティーテ。おかげで元気が出たよ」

「どうしたしまして♪」


 微笑むティーテにさらなる元気をもらった俺は、見事に立ち直ることができたのだった。

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