第92話 嫌われ勇者、ひと肌脱ぐ
事態は思わぬ方向へと進んでしまった。
ラウルのユーリカに対する盛大な告白――まさか、本人に聞かれてしまうとはなぁ。
次の日。
学園は今日も平常授業。
違う点といえば、休み中の思い出話で盛り上がる生徒がいるってくらいか。
……ただ、俺はとても疲れていた。
昨日は徹夜でいろいろと作戦を練っていたんだが……どうにも名案が浮かばない。やっぱりユーリカにも話を聞かないことには先に進めそうにないな。
「ふぅ……」
「大丈夫ですか、バレット」
俺を心配して、ティーテが声をかけてくれる。さすがは天使。その横では、
「君がそこまで弱っているなんて珍しいね。何かあったのかい?」
腕を組むジャーヴィスの姿もあった。
うぅむ……ジャーヴィスにはラウルの一件を知らせておいた方がいいかな。両者と面識があるし、原作ではのちに同じパーティーを組む仲間になるわけだし。
と、いうわけで、ティーテと共に事情を説明。
「ラ、ラウルがユーリカを……」
あれ?
なんか意外なリアクションだな。
もっとこう、サラッと「へぇ、そうなんだ」くらいだと思ったけど……心なしか、ちょっと表情が暗い?
も、もしかして――ジャーヴィスはラウルのことを!?
「でも、ラウルの真っ直ぐな告白はとても胸に響きました! あれからユーリカはいろいろと悩んでいるみたいですけど、嫌な感じではなかったと思うんです!」
「そ、そうなのか……」
なんと。
ティーテの勢いにジャーヴィスが押されている。
こんなこと滅多に起きないレア現象だ。
間違いなく、原作にはない貴重な流れだ。
「ユーリカとラウル……わだかまりがなくなれば、きっと以前のようにお互いを想い合える関係になるはずです……」
完全に乙女モードに入ったティーテ。
その横で渋い表情のジャーヴィス。
なぜそこまで顔をしかめるのか。
最初はその理由にまったく見当がつかなったが、よく考えたら、パーティー五人体制でうち二組がカップルになると、ジャーヴィスが孤立してしまう。
「な、なあ、ジャーヴィス……」
「僕のことならば心配無用だ」
「えっ?」
こちらの考えを先読みしたのか、ジャーヴィスは右腕を伸ばして俺の言葉を止める。
「たとえどんなに君たちがいちゃつこうが、僕は一切! まったく! これっっっっぽっちも羨ましいとは思わないから安心してくれ」
何がどう安心なのかは分からないが、まあ本人が気にしていないというなら遠慮なくいちゃつかせてもらおう。
って、俺とティーテの仲は心配無用だ。
問題はラウルとユーリカの方。
「なあ、ティーテ」
「はい?」
「今日の放課後、ユーリカにラウルのことをいろいろと聞こうと思っているんだけど――」
「応援のためですね!」
ずいっとティーテはその細身の体を寄せてくる。
な、なんかえらく興奮しているな。
そんなに恋バナが好きとは知らなかった。
「ま、まあ、険悪なままというのもアレだし、それにほら……さすがにあのままの状態にはしておけないだろ?」
そう言って、俺は教室の一部分を指差す。
晩夏の日差しが差し込む明るい教室にあって、その場所だけは酷く暗く、ジメジメとしていた。
そう。
思わぬ形でユーリカに気持ちを暴露したラウルが、机に突っ伏していたのだ。
「……確かに、今の彼は相当危ういね」
「厳しいウォルター先生が演習を欠席するよう促すくらいですからね」
それほど、誰が見ても弱っている状態なんだな、ラウルは。
しょうがない。
ここは未来のパーティーメンバーのよしみで一肌脱ぐか。
ティーテもふたりの仲を応援したがっているしな。
それに……ユーリカサイドからの視点で見ると、これまでとは違った状況が浮き彫りとなるかもしれないし。
そういった意味でも、ユーリカの情報は重要になってくるな。
さて……何が出るやら。
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