第91話 嫌われ勇者、思わぬ展開に驚く

 お互い助け合いながら良好な関係を築いていたラウルとユーリカ。

 しかし、ユーリカが奴隷商にさらわれかけたことで、ふたりの関係に大きな亀裂が走った。


 ラウルの秘められた高いポテンシャルを偶然目の当たりにしたアストル学園の関係者が、ラウルを学園に編入させようと声をかけた。

 しかし、誘われたのはラウルひとり。

 さすがに、この時点で魔法使いの「ま」の字も見えないユーリカは関係者の眼中になかったのだろう。


「それは……辛い決断を迫られたな」

「はい……」


 力なく、ラウルは返事をする。


「でも僕は……学園への編入が決まってから、ユーリカのことを思わない日は一日だってありませんでした」

「うん。……うん?」


 あれ? 

 なんか、その言い方だと……


「ユーリカは僕に……とって大切な存在なんです」


 あ。

 これってもしかして――


「な、なぁ、ラウル」

「はい?」

「ひょっとして……ユーリカのことが好きなのか?」

「なっ!? い、いや!? それは別にそういうアレな感じのソレじゃなくて!?」


 途端に動揺しまくってしどろもどろになるラウル。

 ……そうだったのか。

 原作でハーレムを構築し、複数のヒロインと関係を持っていたラウル。だけど、そんなラウルには本命がいた。これは大きな発見だ。


 こうなってくると、厄介なのは原作に登場するティーテやテシェイラ先生以外のハーレム要員たち。


 確か、原作で出てきたヒロインは、最新話までで六人。

 そのうちのふたりはティーテとテシェイラ先生だった。

 ということは――残りの原作ヒロインはあと四人。

 俺はその四人の名前を知っている。

 うちひとりは書籍版の第一巻に登場するため、作者のSNSにラフイラストがあげられていた。

 彼女たちがラウルと接触するよりも先に、なんとかラウルとユーリカをくっつけることができたなら……それが一番理想的な展開じゃないだろうか。


 もっとも、ユーリカのラウルに対する気持ちについては不透明だ。

 いや、最初に会った時の様子を見る限り、現状はかなり嫌っているように見えるが……一緒に暮らしていたわけだし、少しくらい好意を抱いているって可能性も捨てきれないが。


「でも……僕が学園行きを決めてから、ユーリカは素っ気ない感じに……」

「そうは言うけど、ユーリカはティーテの専属メイドになって学園行きを望んでいたわけだから、本気で嫌っているとは思えないな」

「えっ……?」


 驚きの顔で俺を見るラウル。

 これについては揺るがぬ事実だ。

 ユーリカが心からラウルを嫌っているなら、そのラウルのいる学園へ同行するなんてしないはず。


「まだ脈ありだと思うけどな、俺は」

「そ、そう、です、か」


 ラウルも満更ではなくなってきたようだな。


「まあ、あくまでも俺の予想だけど」

「いえ、ありがとうございました、バレット様。おかげで元気が出てきましたよ!」

「それならよかったよ」


 うんうん。

 なんだか思わぬ方向に進んでしまったけど、うまくいきそうで何よりだ。

 やっぱり、俺だけが救われるんじゃなく、周りにも明るい未来を迎えてもらいたいからな。


「これから、ユーリカにラウルのことを聞いてくるつもりだ。その際、それとなく君への気持ちを聞いてくるよ」

「! で、でも……」

「それで少しでも可能性がありそうなら――告白だな」

「こ、告白だなんて!?」

「好きなんだろ?」

「……はい! 僕はユーリカが好きです!」

「えっ!?」


 俺たちの会話に突如入り込んだ第三者の声。

 それは明らかに女子のもので――この場にいてはいけない女子のものだ。


 俺とラウルは恐る恐る振り返る。

 そこには、ティーテと共にその場へ立ち尽くすユーリカの姿があった。


「あ、え、えっと……バレットの帰りが遅いから、散歩がてらこの辺を捜してみようかなって思って」


 あたふたしながらティーテが事情を説明。

 が、それを脳内で整理する間もなく、ユーリカは校舎へ向かって走りだしてしまった。


「ユーリカ!」


 慌てて後を追うラウル。

 これは……予期せぬ展開になってきたぞ。

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