第90話 嫌われ勇者、真実に迫る

 ラウルとユーリカの間に何が起きたのか。

 その真相を知るべく、場所を移して話を聞くことにした。



 移動先は校舎裏。

 ここなら人目にもつかないだろう。


「さあ、教えてくれ、ラウル。ユーリカとの間に一体何があったんだ?」

「…………」


 ラウルは言いにくそうにしながらも、決意を固め、大きく息を吐いてから語り始めた。


「僕とユーリカが貧民街の出身であることはご存知ですよね?」

「ああ。その話は聞いている」


 やはり、貧民街にいた時に何かあったのか。


「……僕がそれまで住んでいた貧民街から、王都近くの貧民街へと移ってきたのは今から一年くらい前ですが、ユーリカも同じ頃にそこへやってきていたんです。あの場所へたどり着くまでの経緯こそ違いますが、僕たちは年齢が近いこともあってすぐに打ち解け、一緒に生活するようになったんです」

「そうだったのか……」


 ふむ。

 出会いに目立った問題点は見受けられないな。

 というか、むしろ一緒に暮らすくらいだから良好なのでは?


 共に家族を失い、偶然出会った年の近い男女。

 最初はお互いを慰め合う関係だったが、それがやがて愛情へと変わり――なんてこともなくはないはず。

 とはいえ、原作でのラウルはいわゆる《鈍感系主人公》だった。

 ハーレムを形成してこそいるが、それはラウル自身が女性キャラを片っ端から口説いたというわけではない。ラウルの繰り出す「ざまぁ」によって救われた女性たちが彼を慕い、自然とそういった関係になっていくというのが【最弱聖剣士の成り上がり】におけるハーレム加入フラグだった。


 当のラウル自身はその辺に無頓着というか……そのせいで初期にラウルと結ばれたティーテはどんどん影が薄くなって登場しなくなっていったし。

 

 ……うん?

 ってことは、もしかして……ユーリカはラウルのハーレム要員だった?

「ざまぁ」達成後、バレットは貧民街に堕ち、ジャーヴィスは自らの罪を償うために出頭したが、ユーリカのその後が描かれていないというのはその布石だった?

 作者的には、ユーリカを後々ハーレム要員として再登場させるつもりだった?


 おいおい……なんか逆に謎が増えていないか?

 ともかく、もっと話を聞いて情報を集めないと!


「一緒に暮らすくらいだから、ユーリカとの仲は良かったんだろう?」

「え、えぇ……俺たちは食べられる野草や木の実を集めてそれを王都の中央通りで売り、そこから得た収入で暮らしていました。ですが……」


 そこで、ラウルの言葉が一瞬止まる。

 が、すぐに続きを語り始めた。


「ある日、奴隷商の連中がユーリカをさらおうとやってきたんです」

「奴隷商が?」


 本来、奴隷商は違法だ。

 恐らく裏稼業の連中なのだろう。

 貧民街にいる子どもってことは身寄りがないのは間違いないからな。そこからいなくなっても気にかける者は少ないだろうし、気づいても余程気に入られていなければ積極的に捜索をするってこともしないはず。

 しかし、これもまた原作では語られていないエピソードだ。

 そもそも、ラウルとユーリカが幼い頃一緒に暮らしていたってだけでも原作ファンとしては結構衝撃を受ける。追放直前のユーリカのラウルに対する態度を見ていたら、とてもじゃないがそうは思えなかったからな。


「それから……どうなったんだ?」

「なんとか奴隷商たちは追い払いました。でも、その現場をアストル学園の関係者に見られていて……」

「!? そうか……その時に学園への編入を誘われたんだな?」

「はい……」


 ……なるほどね。

 だんだん見えてきたぞ。


「その時に誘われたのは、ラウルひとりだけだったんだな?」

「…………」


 俺からの問いかけに、ラウルは黙って頷いた。

 ラウルは学園に誘われ、ユーリカはそのまま貧民街へ残る。


 それが、亀裂のはじまりだったわけだ。

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