第89話 決意
アストル学園祭。
学生(生徒会)が主体となり、クラスごとに出し物をしたり、合唱のコンクールがあったりする――確か、原作【最弱聖剣士の成り上がり】ではそう描写されていた。
しかし、俺はこの学園で生活をしている間に、原作では一切触れられなかったある噂の存在を知る。
それは――学園祭をきっかけに付き合ったカップルは幸せになれるというものだ。
……いや、まあ、学園祭をきっかけに付き合うのとその相手が生涯の伴侶になる因果関係なんて立証されていない。何か、とんでもない魔力で強制的に別れられないっていうなら話は別だけど、どうもそういった類の話でもないようだ。
言ってみれば、どこにでもある学校の噂ってヤツに過ぎない。
過ぎないのだが……
「学園祭で付き合ったカップルは幸せになれるらしいです!」
うちの婚約者が瞳を輝かせながら言うもんだから、否定できなくなってしまった。
ティーテは何かを期待する眼差しを俺に向けているが……俺たちはもう付き合うとかそういう段階を踏み越えて婚約をしているので、学園祭をきっかけに付き合うって話は――うん? 待てよ?
冷静に考えたら……俺はティーテに告白をしていない。
親の決めた婚約者同士なのだから、告白も何もないのだが、ストレートにティーテへ俺の想いを告げたことはない。
これは由々しき問題だ。
「…………」
「? また何か考え事ですか?」
「っ! す、すまない!」
俺はいつものように笑って誤魔化す。
ティーテの前で深く考えるのは控えておかないとなぁ。
何せ、俺の嘘を見抜くのがうまいから。
……だが、ひとつ学園祭に向けて目標ができないのは喜ばしいことだ。
俺は学園祭で――ティーテに告白するぞ!
◇◇◇
新たな目標を胸に抱きつつ、俺たちはユーリカがいる研究棟のとある部屋へと案内された。
「ユーリカ!」
「ティ、ティーテ様!? それにバレット様まで!?」
俺たちのお見舞いに、ユーリカはとても驚いていた。
それより何より……うん。元気そうでよかったよ。
「ど、どうして!?」
「心配していたのよ? テシェイラ先生から、もう大丈夫と聞いたから、こうしてお見舞いに来たの」
「うぅ……ディーデざまぁ!!」
主であるティーテ自らが花束を持って駆けつけた。
この事実に、ユーリカは大号泣。
ふたりは抱き合い、そのうちティーテの目にも薄っすら涙が。
……ここはしばらくふたりにしておくか。
その間に、花瓶へ水を入れてくるとしよう。
俺はふたりに黙ってこっそりと部屋を抜け出し、廊下に出た。
「えっと……水はどこかな?」
花瓶を片手に廊下をうろうろしていると、
「うん? あそこにいるのは……」
誰もいないと思っていた廊下に、ひとりの男子生徒が立っている。
その男子はその場で腕を組み、目を閉じて何やら熟考している様子。相当難解な問題に直面しているのか、今にも吠え出しそうな苦悶の表情を浮かべていた。
って、あいつは……
「ラウル?」
「っ!? バ、バレット様!?」
俺に見つかって体を強張らせるラウル。
その目的は大体察しがつく。
ユーリカのお見舞いなのだろうが……この前の感じを見ていると、向こうからは門前払いを食らうだろう。だから悩んでいたのか。
「……そうか」
そこで、俺は閃く。
ユーリカから話を聞くよりも、ラウルからの方が聞きやすそうだ。あの様子だと、ユーリカはあまり語りたがらないだろうからな。
情報を集めるという意味では、ラウルに話を聞くのもありだ。
「ラウル、ちょっといいかな」
「な、なんでしょうか?」
「君とユーリカの関係について聞きたいんだ」
「っ!?」
言葉が出ないくらい驚くラウル。
何もそこまでビックリしなくてもいいのに。
「どうかな?」
「……分かりました。お話します。俺とユーリカについて」
覚悟を決めたラウルは力強い眼差しでそう答える。
……そんな、腹をくくらなくちゃいけないような内容じゃないと思うんだけど。
ともかく、これでふたりの関係がハッキリする。
俺たちは場所を変えて、じっくりと話し合うことにした。
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