第88話 嫌われ勇者、婚約者とお見舞いの準備をする
夏休みが終わり、いよいよ学園生活が再開される。
それに合わせて、未だ意識の回復しないユーリカはうちの別荘から学園にある研究棟へと移されることになった。
――夏休み明けから二日後。
ユーリカの面倒を見てくれることになったテシェイラ先生から、意識が戻ったという報告を受けた。それに合わせて、ユーリカ暴走の現場に居合わせた俺たちに話が聞きたいということで、放課後、俺とティーテはお見舞いも兼ねて研究棟を訪れることにした。
ちなみに、ジャーヴィスとラウルに関しては、別の場所でウォルター先生が担当することになっている。
これは、ラウルとユーリカの関係に配慮してのことで、以前、俺がテシェイラ先生に進言していた。
そのことを相談した際、俺はテシェイラ先生からある命を受ける。
「ラウルとユーリカの関係をハッキリさせておきたいから……ふたりの過去について調べておいて」
つまり、どちらかに直接話を聞いてきてほしい――ということらしい。
まあ、教員が行くよりも、同学年の俺たちの方が、向こうも話しやすいってことがあるかもしれない。特に編入生であるユーリカは学園関係者と面識ないし。
与えられた使命を果たすためと個人的な関心もあって、俺はユーリカへお見舞いに行った時、ラウルとの関係を問いただすつもりだ。
そういったわけで、俺とティーテは昼休みを緑化委員が管理する庭園で過ごしていた。
目的はユーリカのお見舞いで渡す花の調達。
もちろん、ハンス委員長には承諾済みだ。
今はティーテが状態のいい花を見繕っている真っ最中である。
「バレットはどんな花がいいと思いますか?」
「うーん……こっちの黄色い花とか?」
「さすが! お目が高いですね!」
俺は植物に関する知識はほとんどないので、ユーリカの明るいイメージに合わせて選んだのだが、どうやら当たりらしい。
「高級な花だったのか?」
「確かに高級ではありますが、それよりも今の状況にとてもピッタリな花だなと思って」
「そうなのか?」
「言い伝えがあるんですよ。大昔、このラーテルムの花は万能薬として広く使われていたそうです。ただ、近年の研究で、回復効果はほとんどないことが立証されてしまったので、現在は観賞用として使われています。それでも、過去の言い伝えから、現在はお見舞いなどで送る花の代表格みたいな扱いになっているんです」
「なるほどね」
俺は嬉しそうに花を集めていくティーテを笑顔で眺めながら、ホッとしていた。
ユーリカがあんな風になって以降、ティーテは表面上こそ元気にしているが、その内側はかなり落胆しているのが分かっていた。
せっかく、年齢の近い専属メイドができて、仲良くしていたというのに……。
ただ、ユーリカの意識が戻ったことを知らされてからは、すっかり元気を取り戻していた。
俺としても、やっぱりティーテには笑顔でいてもらいたいからな。
「どうでしょう?」
「いい感じの花束になったな。さすがはティーテだ」
「そ、そんな……」
真っ直ぐに褒めたら照れて顔を赤く染めるティーテ。
うんうん。
そういう反応見るのも久しぶりな気がするよ。
「じゃあ、花は一旦委員会室に置いて、教室へ戻ろうか。そろそろ授業も始まる頃だし」
「そうですね」
花を置き、渡り廊下を並んで歩いていると、進行方向に人だかりができていた。
「なんでしょうか?」
「あそこは掲示板がある場所だけど……学園から何か知らせがあるのか?」
俺たちも人だかりに紛れて、掲示板に貼られた知らせに目を通す。
それは、
「あっ! 今年の学園祭の案内ですね!」
ティーテの声が弾む。
そう。
知らせとは学園祭開催の報告だったのだ。
夏休み前はいろいろあって、開催が危ぶまれていたからなぁ。クラスのみんなも楽しみにしていたし、無事開催されるようで何よりだ。
「楽しみですね、バレット♪」
「ああ」
夏休み後半はいろいろあったからなぁ。
学園祭はティーテと一緒にトコトン楽しむことにしよう。
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