第86話 嫌われ勇者と聖騎士

※予約投稿したつもりができていなかったというオチ。

 申し訳ありません。




 暴走を始めたユーリカ。

 まるでそれを待っていたかのように、ラウルがやってくる。


 このタイミングで合流してくるとか、なんてタイミングがいいんだ。これがいわゆる主人公補正ってヤツか?


「君たちは下がっていろ」


 ユーリカを止めるために接近を試みていたラウルだが、それよりも先に聖騎士クラウスさんが俺たちを守るように立ちふさがった。


「クラウスさん!?」

「落ち着け、ラウル。ここは俺に任せろ」

「し、しかし!」

「ユーリカを守りたいという君の気持はよく分かるが、暴走した彼女を相手にするにはまだまだ力不足だ」


 さすがは聖騎士の称号を持っているだけはある。

 暴走するユーリカを前にしてもまったく動揺した素振りが見受けられない。


 ――だけど、ラウルは随分と必死だな。

 クラウスさんに止められこそしてしまったが、それがなければ間違いなく、身を挺してでも止めるつもりだったろう。

 こうなってくると、ただの知り合いでは片づけられない関係になってくるな。

 今だって、クラウスさんと対峙する暴走ユーリカを心配そうに見つめている。

 

「さて、ユーリカ嬢……すぐに助けてやるぞ」


 クラウスさんはポケットから何かを取り出す。

 それは小瓶で、中には透明な液体が入っている。

 まさか……水じゃないよな?

 

「があっ!」


 飛びかかってきたユーリカをヒラリとかわしたクラウスさんは、人差し指をちょいちょいと動かして挑発する。それにまんまと乗っかったユーリカは再度飛びかかるが、一撃目でそのスピードを見切っていたクラウスさんはカウンターを繰り出した。

 とはいっても、致命傷を与えるような大それたものじゃなく、軽く小突く感じだった。


「がっ!?」


 バランスを崩したユーリカはその場に倒れ込む。

 が、もちろんそれだけではどうにもならず、すぐに立ち上がろうとするが、クラウスさんは目にもとまらぬスピードでユーリカの懐に飛び込むと、半開きの口へ小瓶を突っ込み、中の液体を無理やり飲ませた。


「がうっ!?」


 途端に、身もだえ始めるユーリカ。

 もしかして、毒薬か?

 ……さすがにそこまではしないだろう。

 水の正体に思考を巡らせていると、やがてユーリカは完全に動きを止めた。恐る恐る近づいてみると、ユーリカはいつもの顔に戻っており、気を失っている。


「聖水の効果が出てきたようだな」


 パンパンと膝についた土埃を払いながら、クラウスさんが言う。


「聖水?」

「そうだ。ちょいと学園長に頼まれてねぇ。暴走した生徒を完治させるためには聖水がいるっていうんで、ラウルの修行のついでに採ってきたのさ」

「そ、そうだったんですね」


 どうやら、その聖水の効果でユーリカは元に戻ったらしい。


「ラウルの時みたく、放っておいても元に戻るようだが……テシェイラ女史の研究によると、それには個人差があるらしい」

「そ、それってつまり……」

「治らないヤツはいつまで経っても治らないままってことだな。ラウルともうひとりの学生はすぐに正気に戻ったから、運が良かったよ」


 そうだったのか。

 まあ、そういった研究内容っていうのはあまり外部へ漏らさないだろうからな。うちのメイド三人衆でも存在を掴み切れなかったか。


 ラウルとジャーヴィスは気を失っているユーリカへ近づいていく。

 一方、俺はユーリカの変貌に対してショックを受け、震えているティーテへと歩み寄る。


「大丈夫か、ティーテ」

「バレット……!」


 仲の良かったユーリカがあんなことになって、精神的にひどく動揺しているようだ。

 俺はそんなティーテを優しく抱きしめた。


「落ち着いたか?」

「……はい」


 ようやく震えが止まったティーテ。

 それを確認してから、俺はクラウスさんのもとへ。


「あの、クラウスさん」

「うん?」

「ユーリカは……うちで預かります」


 それが最善だろうと思う。

 学園が始まるまではうちで預かり、その後でテシェイラ先生に診てもらおう。

 俺はティーテの肩を抱きながら、ダンジョンを出た。ユーリカはラウルに背負われ、ジャーヴィスはそのフォローへ回っている。


 俺たちの初ダンジョンはとんだ結果になったが……クラウスさんの持ってきた聖水とテシェイラ先生の研究――少しずつだが、着実に解決へ向けて動きだしているようだ。


 俺も、できることをしないとな。

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