第85話 嫌われ勇者と暴走する仲間
「今日のランチはブラック・ボアの丸焼きなんてどうかな?」
「モ、モンスターを食べるんですか?」
「冒険者たちの間では美味と評判らしいよ? それに確か、学園舞踏会で出されていた料理の中にもあったような」
「そ、そうだったんですか……」
ユーリカの異変に気づいていないジャーヴィスとティーテはモンスター談議に花を咲かせているが……この反応は尋常じゃないぞ。
「大丈夫か、ユーリカ?」
「へ、平気です……お気になさらず……」
そんなわけにいくか。
額にたまる汗は暑さから来るものじゃないし、体は小刻みに震えている。それを必死に抑えようと、両手で自分を抱えるようにしているが、まったく効果はない。
このままじゃ続行は不可能だ。
「ジャーヴィス、ティーテ、ちょっと来てく――」
俺がふたりに呼びかけた時、ブラック・ボアと目が合った。
次の瞬間、ブラック・ボアはこちらへ向かって勢いよく突進してくる。
「ちぃっ!」
なんてタイミングの悪さだ。
俺は舌打ちをしながら聖剣を抜くと、ダッシュしてジャーヴィスとティーテの前に出た。
「ティーテ! ユーリカを頼む!」
「えっ? ――あっ! ユ、ユーリカ!?」
ユーリカの異変に気づいたティーテが駆け寄る。その背中を追いかけるようにしてブラック・ボアが迫る――が、
「邪魔だ!」
聖剣のひと振りで吹き飛ばす。
背中から岩壁に強く叩きつけられたブラック・ボアはその巨体を横たえて動かなくなった。死んではいないはずだから、気絶したんだろう。
まったく、ティーテを襲おうなど言語道断だ。
「あ、あの巨体をたった一撃で……」
咄嗟のことだったし、ティーテが狙われていることで力を制限している余裕はなく、現状で出せる全力をぶつけた結果だったけど……さすがにやりすぎたか? ジャーヴィスが引いているみたいだし。
って、それよりも今はユーリカだ。
「うぅ……」
ついにその場へ倒れ込んでしまったユーリカ。
これはもう只事じゃない。
「すぐに外へ連れ出そう」
「そ、そうだね」
「分かりました!」
俺の提案にふたりも賛成。
ジャーヴィスと一緒に肩を持ち、両脇から支える格好で出口を目指す。幸いにも、外では大勢の使用人たちが待ち構えているはずなので、すぐに適切な治療が行えるはずだ。
「もう少しの辛抱だ。頑張れ、ユーリカ」
励ましながら進む――と、それまでの苦しそうにしていた声が聞こえなくなった。
「? ユーリカ?」
苦しみから解放されたのかと思いきや、突如俺たちの手を振り払ったユーリカ。そして、
「う、うぅ――うああああああああ!」
突然叫びだした。
「ユ、ユーリカ!?」
「! 待つんだ、ティーテ!」
近づこうとするティーテを制止する。
この状態は……あの時と酷似しているぞ。
「バレット……まるであの時の《彼》のようじゃないか?」
「ああ……」
どうやらジャーヴィスも気づいたようだな。
やはり、今のユーリカの症状は、学園での実践演習の際に暴走したラウルとよく似た状態にある。
しかし……なぜだ?
ラウルの時は他の生徒にも似たような症状が見られたため、原因は学園側にあるとばかり思っていた。だが、まだ学園に足を運んだことのないユーリカまでもがこのような状態になるなんて――もしかしたら、
「どこかで学園の関係者に会っているのか?」
有力なのは最初に疑惑の目が向けられたティモンズ先生。
出張続きでほとんど学園にもいなかったし、可能性はなくもない。
「どうする、バレット!?」
おっと、とりあえず熟考はあとだ。
「ともかくユーリカを止める。原因の追究はその後だ」
暴走したユーリカを抑え込み、なんとかダンジョンの外へ連れ出さなくてはならない。外に出さえすれば、なんとかなるはずだ。
――その時だった。
「ユーリカ!!」
どこからともなくユーリカの名を叫ぶ声。
今のって……
「ラウル!?」
振り返ると、こちらに向かって走ってくるラウルと聖騎士クラウスさんの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます