第82話 嫌われ勇者の贈り物
※次回は7日の土曜日に投稿予定!
パーティーの翌日。
朝食を済ませた俺は自室で待機していた。
本日は晴天。
絶好のお出かけ日和。
午後はジャーヴィスと合流してダンジョン探索を行う予定だが、それまでの時間をティーテとゆっくり過ごす――それをするにはまさにおあつらえ向きの天候と言えた。
そのティーテは、現在着替え中。
ユーリカがその手伝いをしているようだが、まだまだ要領が悪く、おまけにここは初めて来るアルバース家の別荘ということもあって勝手が違うらしく大苦戦。それを見かねたうちの三人衆が助っ人に向かったそうだが……三人全員が出張る必要はなくないか?
まあ、あの三人からすれば、仕えている屋敷は違うが同業の後輩ってことでユーリカを可愛がっている節がある。
ちょっと前にカミングアウトしたが、ティーテのことを実の妹のように思っているとも言っていたからなぁ。きっと、あのふたりが可愛くて仕方がないのだろう。
というわけで、俺は自室でコーヒーを飲みながら、ティーテの支度が整うまでゆっくりと待っていた。
しばらくすると、プリームが戻って来た。
「バレット様、間もなく支度が整いますにゃ」
「そうか。ご苦労だったね、プリーム」
「いえいえ~」
相変わらず元気だな、プリームは。
機嫌もいいらしく、頭の猫耳はピコピコと左右に元気よく揺れている。
「でも、庭園を見て回るだけなのに、大袈裟じゃないか?」
「バレット様……女の子はそうもいかないんですにゃ」
む。
そういうものか。
……しかし、待つだけというのはなんだか落ち着かないな。
俺がそわそわしていると、急にプリームが「あっ!」と大声をあげた。何事かと視線を移動させると、プリームは窓の外から庭園を眺めているようだ。そこに何があるのかと近寄ろうとしたら、
「バ、バレット様! すぐに庭園へ向かってください!」
俺の接近に気がついたプリームが全身を使って窓を覆い隠す――が、マリナやレベッカに比べて小柄なプリームではちょっと無理がある。その気になれば覗き見ることは可能だが……どうやら、ティーテ絡みの案件らしい。
「分かったよ。じゃあ庭園へ向かうか」
「! そうしましょう!」
一気にテンションが上がった最高潮へと達したプリーム。
耳だけでなく、尻尾を振る勢いも同時に増したのがその証拠だ。
プリームにせっつかれる形で庭園へとやって来ると、そこにはすでにマリナ、レベッカ、そしてユーリカの三人が待ち構えていた。
そして、三人に囲まれるようにして立っているのは――
「ティーテ……」
俺は息を呑んだ。
妖精?
天使?
あ、ティーテだった。
今日の服装は以前の白いワンピースではなく、もっとカジュアルな服装だ。たぶん、午後からのダンジョン探索を考慮しての格好なのだろうが……
「さすがはティーテだ……何を着ても似合う!」
「私もそう思います!」
これにはユーリカも賛同。
もちろん、メイド三人衆も拍手喝采だ。
昨日のドレスの破壊力も凄かったが、今日の出で立ちもまた素晴らしい。俺個人としては、どちらかというと今の格好の方が好みかな。素朴ながら地味すぎず。華美なドレスよりもティーテらしさが出ていると思う。
昨日はパーティーという舞台だったからこそ、ドレスを選んだリリア様はいつもより派手な感じにしたのだろうが、普段ならこっちの方が断然いい。
そのことを伝えると、ティーテははにかみながら「分かりました」と力強く返事をする。その裏ではユーリカが必死にメモ中。すっかり、メイド姿が板についたな。
さて、落ち着いたところで庭園デート開始。
――と、ティーテはすぐあることに気がついた。
「あれ? ここにある花って……」
ティーテがこちらへ顔を向ける。
俺は黙って静かに頷いた。
「やっぱり……私が好きな花ばかり」
そう。
この日のために、実は密かに仕込んでおいたのだ。
マリナたちにそれとなくリサーチさせ、別荘を管理するメイドたちへ準備を進めさせていたのである。
時間があれば、俺自らが手を加えたかったけど……まあ、それはまた今度だ。
「どうかな?」
「凄いです! 本当に……」
感極まったのか、ティーテは両手で口を覆うと目じりに薄っすらと涙を浮かべた。
喜んでもらえて何よりだけど……まさか泣いてしまうとは予想外だった。
俺はそんなティーテの手を引いて歩きだす。
穏やかで優しく、誰にも邪魔されたくない幸せなティーテと過ごす時間。
今だけは、それに浸っていたいと思う。
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