第80話 嫌われ勇者、パーティーを楽しむ
次回は11月3日(火)に投稿予定!
いよいよパーティーが始まった。
出席者は総勢で三十名ほど。
本当に選ばれし者が集まったって感じのパーティーだ。
こう言ってはなんだが、主催した目的は「地盤固め」と言えばいいのか。
出席者はジャーヴィスの家みたく、うちとの関係が深い者たちで固められているのだ。
そんな出席者たちは、俺とティーテの関係に起きた変化に驚いている様子だった。
それまで、婚約者でありながら公の場で一緒にいることがなかったのに、今では腕を組んでにこやかに話し合っている。仲睦まじさを全面に押し出していたのだ。
「いやぁ、大きくなられましたな」
「それに、お母様によく似て美しい」
「い、いえ、そんな……」
アルバース家側のこういった集いに顔を出すのは久しぶりということもあって、ティーテは大人気であった。出席者たちは俺――まあ、バレットがまともになっているという情報を掴んでいるらしく、それについての探りを入れる意味で近づいてきたのだろう。
そんな彼らに、俺は真摯な対応を見せた。
言葉遣いやマナーに気を配り、にこやかな態度で話す。そして、時折ティーテといちゃついて見せる。この効果は絶大であった。
最初はまだ「本当にまともになったのか?」という警戒している様子だったが、俺の立ち振る舞いや言動から、情報は本当だったと確信したようで、とても楽しく会話ができた。
その途中、俺は他の仲間たちの様子についてもこっそりチェックを行っていた。
ジャーヴィスは俺たちと同じように、他の出席者とおしゃべり中。レクルスト家も、ここで人脈を広げていきたいと躍起になっているようだ。
しかし……ジャーヴィスが女子だということはいずれバレてしまう。
正直、もう性別を公開してもいいんじゃないかなぁと俺は思っていた。
何より、俺はジャーヴィス本人が男子として生活することに限界を感じているように思えるのだ。もっと言えば、ジャーヴィス自身は女子として生きたいけど、家の都合からそれができないでいることに苦しさを感じているようにさえ思う。
できることならば、その苦しみから解放してあげたいのだけど……男装して学園に通っている真の理由はまだ分かっていない。
夏休みが終わったら、それとなく本人に聞いてみようかな。
一方、同じく将来的にはパーティーを組む予定となっているティーテ専属メイドのユーリカは、自身の使命を果たすべく、ティーテにベッタリとついて回っていた。
肝心なのはラウルとの関係――てっきり、クラウスさんが聖騎士という立場を利用して潜り込んでくるのではと思っていたが、そのサプライズはなかった。
まあ、仮にあの人がそんな手段を講じたとしても、あの時のピリピリした空気を考えたら、きっとラウルだけ欠席するだろうな。
こちらも随時調査が必要になってくるだろう。
さらに俺の目を引いたのは姉さんとアベルさんのふたり。
俺たちと同じように、楽しそうな雰囲気でいろんな人たちと会話をしている。年齢的にもあっちは完璧に夫婦って感じがするな。
「バレット」
姉さんたちを眺めていたら、ティーテに呼ばれた。
振り返ると、その手には小さくカットされたフルーツが盛られたグラスが。
俺のために取ってきたのだろう。
なんて気の利く子なんだ――と、感動していたら、ティーテがそのうちのひとつを摘まんで、
「はい、あーん♪」
と言って俺の前に差し出す。
これが……噂に聞く「あーん♪」か……。
凄まじい破壊力だ!
何より、憧れていた行為を実際にやってみたのはいいけど、思いのほか恥ずかしくて顔が真っ赤になり、フルーツを摘まむ手が震えて出している様子が可愛い。
「あ、ああ、いただくよ」
クールを装って、フルーツをいただく。
白状すると、味なんて分からなかった。
ただ、周りの出席者たちからはなぜか拍手された。
さすがにこれは俺もめちゃくちゃ恥ずかしかったが、俺とティーテの関係が改善し、仲良くやっていることをアピールするには十分すぎる効果をもたらしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます