第79話 嫌われ勇者と婚約者の母
※次回は明日投稿予定!
ジャーヴィスと少し部屋で話した後、「しまった。君のご両親への挨拶がまだだった!」と言って、部屋を慌てて出ていった。
その去り際、
「ご両親に挨拶と言っても、普通の挨拶だ」
と、言っていたが……普通じゃない挨拶なんてあるのか?
素朴な疑問に首を傾げつつ、俺は明日ティーテと一緒に散策しようと思っている別荘の庭園を事前にチェックしておこうと部屋を出た。
すでに屋敷内には数名の来客が来ており、中には姉さんの婚約者であるアベルさんの姿もあった。もしかしたら、と周囲を見回してみたが、どうやらラウルとクラウスさんは来ていないようだ――って、当たり前か。
しばらく歩いていると、
「あら、バレットさん」
ひとりのご婦人に呼び止められた。
「リリア様」
振り返り、その人の名を呼ぶ。
ティーテの母親である、リリア様だった。
原作では大変病弱であり、原作版バレットと娘の関係が良好でないことも重なってほとんど動けないほど弱っていた。それが解消されたかと思うと、今度はラウルのハーレム要員になって存在感が希薄に……それが今じゃ、こうしてひとりで出歩けるっていうだから凄いな。
あと、リリア様はとても若々しく見える。
実際の年齢は知らないが、とても十三歳になる娘がいるとは思えなかった。二十代前半と言っても、きっと信じてしまうだろう。
「ちょうどよかった。実はあなたを呼びに来たの」
「俺を……ですか?」
使用人を介さず、リリス様が直々に俺を?
……どう考えても、ティーテ絡みだよな。
しかし、ティーテで思い出したけど、リリア様とティーテは本当によく似てみる。髪の色はもちろんだが、顔もそっくりだ。
「もしかして、ティーテの身に何か?」
「何かあったといえば……確かに、とんでもないことが起きたわね」
「えっ!?」
凄く深刻な顔つきで語るリリア様。
その後、ひとつ大きなため息をついてから、真相を語った。
「うちの娘が……可愛すぎるの」
「知っています」
それについては完全同意だ。
……そういえば、ティーテはリリア様と一緒に準備をするって言っていたけど……こりゃかなり着せ替えをさせられたかな。リリア様、よく見るとお肌ツヤツヤだもんなぁ。
「あなたには……本当に感謝しているわ」
恍惚とした表情から一変して、急に真顔になるリリア様。
感謝されているけど……感情の温度差がエグイな。
「笑顔も増えたし、本当に毎日が楽しそうだもの」
「俺も、ティーテと一緒にいられるのが嬉しいですし、向こうもそう思っているのなら、これに勝る喜びはありません」
「まあ♪」
ポン、と手を叩いて微笑むリリア様。
こういった仕草や笑顔は本当にティーテとそっくりだな。
「――って、すっかり本題からそれてしまいましたけど……」
「そうだったわ! ティーテの準備が整ったから呼びに来たのよ!」
リリア様は高いテンションをキープしつつ、俺の背中を押して部屋で待つティーテのもとへと急がせる。
そして、部屋に入った途端――一瞬、息が止まった。
「バ、バレット……」
恥ずかしそうに目を伏せるティーテ。
無理もない。
ティーテは昼間言っていた通り、学園舞踏会の時よりも肌の露出が大きい青のドレスに身を包んでいたのだ。
「どうかしら? 私がデザインしたティーテのドレスは」
「えっ!? リリア様がデザインを!?」
「こう見えて、絵心には自信があるのよ?」
「素晴らしいです!」
俺とリリア様は固く握手を交わす。
それから小一時間、俺とリリア様は真っ赤になっているティーテを褒めちぎったのだった。
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