第78話 来訪者

※ 次回は10月31日(土)の正午に公開予定!

  来月の下旬あたりから、イラストを含めた書籍化情報が少しずつ公開される予  定です!





 屋敷へと戻って来た俺たち。

 マリナたちメイド組はパーティーの準備を手伝うために他のメイドたちと合流。その中には当然ユーリカの姿もあった。


 俺としては、ラウルとの関係性を直接聞きだしたかったのだが……まあ、ここは仕事を優先してもらうとしよう。時間はまだたっぷりあるわけだし、ティーテの専属メイドとして学園に通うらしいからな。チャンスはいくらでもある。


 しかし、彼女が魔法使いとしてパーティーに名を連ねていたことを考えると、学園に通うようになってその素質を誰かに見抜かれ、正式に生徒として学園に籍を置くことになるのだろうか。


 うーん……分からん。

 こればっかりはまったく先が読めない展開だ。


 俺は別荘にある自室で唸りながら、ラウルとユーリカの関係についていくつかの仮説を立てていた。

 ちなみに、ティーテは不在。

 理由はパーティーの準備のため。

 もちろん、料理を用意したり会場を作ったりというわけじゃない。

 今夜のために、おめかしをしているのだ。


 学園舞踏会とは違い、今回はあまり動きのない立食形式のパーティーらしく、それに合わせてドレスも違ってくるらしい。

 より見た目に気を遣ったデザインらしいけど……正直、ティーテは何を着てもティーテ自身の可愛さによりドレスはおまけ扱いになるからなぁ。


 などと考えているうちに、屋敷の周辺には招待された貴族たちの乗って来た馬車がズラリと並んでいた。

 夜が近づき、だんだん薄暗くなってくると、発光石を埋め込んだ照明器具が辺りを明るく照らし出す。

 ティーテの家ほどじゃないが、ここにも庭園はあるんだよな。

 うん。

 明日はティーテと一緒にこの庭園を見て回ろうかな。その後はまたこの辺を散歩したり、学園から出された課題を一緒に取り組むっていうのも悪くない。


 明日のプランを立てていると、部屋のドアをノックする音が。


「? 誰だろう……マリナたちは会場にいるはずだけど」


 返事をしながら外へ出ると、待っていたのは意外な人物だった。



「やあ、バレット」

「……えっ? ジャーヴィス?」


 なぜか、余所行きの格好をしたジャーヴィスが立っていた。


「な、なんでここに?」

「なんでとは随分だな。僕は正式にアルバース家から招待を受けた来客だよ?」


 あ、そういうことだったのか。

 というか、冷静に考えたらレクルスト家を招待しないわけないか。


「それなら、ジャーヴィスも今日のパーティーにドレスを着ていくのか?」

「ドレス?」

「あっ――」


 しまった。

 うっかりと口走ってしまったが、ジャーヴィスが実は女子というのは俺とティーテのみが知る事実。普段は男として生活をしているわけだから、ドレスなんて着るはずがないのだ。


「す、すまない。無神経な発言だった……」

「いや、気にしていないよ」


 クールに対応するジャーヴィス。

 中性的な顔立ちながら、そのスマートな振る舞いはまさに紳士って感じだ。


「……だけど、少し気になる点がある」

「うん? なんだ?」

「今、君は僕にドレスを着るのかと尋ねた。つまり、君の頭の中にいる僕は、ドレスを身にまとった姿になっている――そう考えていいのかな」

「それは、まあ……」


 確かに、さっきドレスのことを口にした際、俺の中ではドレスを着てメイクをバッチリ決めたジャーヴィスの姿があった。

 

「なるほど。では、君の中の僕はどんなドレスを着ていたんだい?」

「? なんでそんなことを――」

「他意はないよ。ただ個人的な興味関心で聞いているんだ。僕は女子でありながらご覧の通り男として生活をしている。普段の振る舞いや言動には細心の注意を払っているおかげで周囲の人間には気づかれていないが、君にはバレてしまった。だけど君はそんな僕を軽蔑したり脅したりせず、婚約者であるティーテと一緒に秘密を守ることへ協力を申し出てくれた。これについては大変感謝している。っと、話題がそれてしまったね。興味関心といっても、それは女子らしさを追及して少しでも他者から可愛く思われたいとか、褒めてもらいたいとか、そういった感情じゃないんだ。僕は完璧に男として暮らしているつもりだけど、たとえ正体を知っているとはいえ、君に女子の格好をしている僕の姿を想像させてしまったのは、いつもの生活の中に女性を感じさせる部分が残っているのではないかと推察した結果であり、君の好みを探って密かにそれを参考に仕立てたドレスをサプライズ的な感じで君に披露したりとかまったく考えていないのでそこは分かってもらいたい。そもそも君にはティーテという最愛の婚約者がいるということは重々承知している。ただ、貴族の中には平気で愛人を持つ者もいるので、たとえ男として暮らしている僕であっても迂闊に女性へそのような――」

「…………」


 ジャーヴィスは物凄く早口で語りだした。

 ま、まあ、元気そうで何よりだよ。


 結局、ジャーヴィスが語り終えるまでに三十分近くかかったのだった。

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