第76話 嫌われ勇者、主人公へ対抗意識を燃やす

「ラウル!? クラウスさん!?」


 ひどくやつれ、ボロボロのふたりに駆け寄る俺とティーテ。


「一体何があったんですか!?」

「バレット……話せば長くなるのだが……」

「は、はい」


 聖騎士クラウスさんの神妙な顔に思わずゴクリと唾を呑む。


「修行の旅の途中で道に迷ったんだ」

「えぇ……」


 想像以上に普通である上に、とても短い理由だった。




 大自然の中で遭難しかけていたふたりは相当腹ペコらしく、俺とティーテはお腹が空いたら途中で食べようと思って持ってきていたサンドウィッチを渡した。

 

「すみません、バレット様……せっかくおふたりで楽しんでいたというのに……」

「まあ、気にするな。無事で何よりだよ」


 下手をしたら、新学期スタートにいきなり主人公の訃報を聞かなくちゃいけなかったかもしれないし。それを防げただけよしとしよう。


「いや、本当に申し訳なかった」

「だ、大丈夫ですから、クラウスさん。俺たちの昼食はまだこれからですし」

「お詫びと言ってはなんだが、遭難中に見つけたオススメスポットを教えておこう。あっちの茂みの奥だ。周囲から様子が見えづらく、近くの小川のせせらぎで多少の声はかき消してくれるはず。あそこなら、何をしていてもバレないだろう」

「変な気を回さないでください!」

「聖騎士ジョークだよ」


 なんてタチの悪いジョークなんだ……。

 幸い、ティーテは意味が分かっていないようで、首を傾げている。


「ま、まあ、それはともかく……修行の成果はどうだったんですか?」

「それについては上々だ。君たちがクラーケンと戦っている間、我々もモンスターの討伐クエストに挑んでいてな」

「そうなんですか? 討伐したのはどんなモンスターだったんですか?」


 どうやら、ティーテはふたりのクエストに興味を持ったようだ。


 ――そういえば、原作でもあったな。

 聖騎士クラウスとラウルの修行旅。

 それに、ティーテがついていくと言い出したんだ。


 学園の舞踏会以降、急接近したふたりは、この討伐クエストを通してさらに距離が縮まったんだよな。あそこはWEB版でも屈指の人気エピソードだった。ピンチに陥ったラウルを救うためにティーテが――


「…………」


 いや、これ以上はよそう。

 なんか腹立ってきた。


 今のラウルはきっとそんなことをしないだろうが……。


「? 僕の顔に何かついていますか、バレット様」

「な、なんでもないよ」


 思わず凝視していたら怪しまれた。

 ……まあ、よっぽど大丈夫とは思うけど、一応胸に留めておくことにしよう。


 ティーテは絶対に渡さんからな、ラウル。

 あの子は俺の手で幸せにしてみせる!


 ――と、いったわけで、時間的にもそろそろ昼食になるので、俺とティーテはふたりを連れてマリナたちのもとへ戻ることにした。


 それにしても……思わぬ形でデートが台無しになったな。

 この埋め合わせはこの夏休み中にしないと。


 

 ◇◇◇



 マリナたちのもとへ戻ってくると、すでに昼食の準備は整えられているようだった。


「おかえりなさいま――あら? あなたは……」


 忙しそうにパタパタと動き回っていたマリナは俺たちの気配に気づいて振り返り、クラウスさんとラウルがいることに驚いていた。さらに、同じく準備を進めていたレベッカも、突然の来客に慌てているようだ。

まあ、ひとりは聖騎士だしな。

 無理もない。


「うん? プリームとユーリカは?」

「火をおこすのに使う薪を集めにいってもらっています」

「そうか。――えっと、急に人が増えちゃったけど……」

「料理の量でしたら、問題ありませんよ」


 胸を張って答えてくれたレベッカ。

 うむ。

 実に頼もしい。


 そうこうしているうちに、薪を集めに行っていたふたりが帰還した。


「バレット様? もう戻られたんですか?」

「いろいろあってね」


 俺とプリームが話していると、後ろからユーリカが顔をのぞかせる――と、


「「!?」」


 ユーリカの姿を視界に捉えたラウルの表情が一変する……が、それはユーリカも同じであった。


「ユ、ユーリカ……」

「ラ、ラウル……」


 あ、あれ?

 ふたりは顔見知り?

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