第75話 嫌われ勇者、婚約者と避暑地デートをする
翌日。
俺とティーテは周囲を散策しながら、最終目標をこの辺りでもっとも高い山とされるリステン山の麓にある自然公園に定めて屋敷を出た。
「いい空気ですね~」
「だな。学園も悪くないけど、やっぱりこっちは別格だ」
白のワンピースにこれまた白い帽子。
ティーテの清楚さを表すような純白の出で立ちに、俺は思わず見惚れる。
大自然の中にたたずむ美少女……こんな素晴らしい光景を拝めるなんて!
というか、将来的に俺たちは夫婦になる。
なら、今日だけと言わず、これからずっとティーテと一緒にいられる――何それ? 幸せすぎるんですけど。
「あっ、見てください! 今、湖面に魚が跳ねましたよ!」
「おおっ、結構大きかったな。釣りをしてもよさそうだ」
「釣りをやられるんですか?」
「いや、やったことはないけど、これだけ綺麗な湖だから、いい魚が釣れそうだなって」
「もし釣りに行くのでしたら、私も一緒に行きたいです!」
「いいね。じゃあ、この休みの間に行こうか。竿なら町で手に入るだろうし」
「やった♪」
些細なことでも思わずテンションが上がってしまうティーテ。
純粋だなぁ。
「バレット様」
「ぬおっ!」
いきなり背後から声をかけられ、思わず変な声が漏れた。
「レ、レベッカ?」
声の主はメイド三人衆のひとりであるレベッカだった。
そのレベッカの背後では、イスやらテーブルやらを用意して昼食の準備に取りかかっているマリナ&プリーム+ユーリカの姿が。
「えっと……どうかした?」
「釣りをご所望でしたら、竿の用意はしてあります」
「えっ!?」
なんという準備の良さ。
釣りの話なんて、今まで一度もしたことがなく、ついさっき、ティーテが湖面を跳ねる魚の話をしたから「やってみたいなぁ」くらいのテンションだったのに、まさかこうなることを見越して用意していたというのか!?
「バレット様、騙されてはいけませんよ。レベッカはあとでこっそり釣りを楽しむために何本か持ち込んでいただけですから」
「マ、マリナ!?」
ああ、そういうことね。
ネタバレをされてレベッカは怒りつつも、四人のメイドたちはなんだかんだ仲良く準備を続行。
「じゃあ、俺たちは少しこの辺りを見て回ってくるよ」
「分かりました」
マリナにそう告げて、俺とティーテは散策に出かけた。
バレット(前)との記憶共有により、この別荘地のどこに何があるのか、大体のことは把握できている。
ただ、納得いかないのは、この別荘地に関する記憶のどこにもティーテが登場していないという点だ。
じゃあ、夏休みの間、バレット(前)は婚約者のティーテを放っておいたってことか?
パーティーで別の女性にばかり声をかけている記憶が残っているが……我ながら、なんて胸糞悪い記憶なんだと怒りを覚える。
両親も、ティーテとの仲を心配しているようだが、この時、すでに聖剣に選ばれ、勇者としてちやほやされていたバレット(前)に言葉は届いていなかったようだ。
まさにやりたい放題。
きっと、この頃から、両親やレイナ姉さんのバレット(前)に対する感情はマイナスの方向へ進んでいったのだろう。
特に、姉さんはこの後でアベルさんとの一件もあるし。
――だけど、そんな暗い未来はもう訪れない。
「とってもいい天気ですね」
「うん。それに気候も涼しくて、過ごしやすい温度だ」
俺とティーテは手をつないで木々に囲まれた道を行く。
すると、近くの茂みが突然ガサガサと揺れ始めた。
「! バ、バレット!」
「俺の裏に隠れるんだ、ティーテ!」
俺はティーテを背後に回して聖剣に手をかける。
茂みの中から出てきたのは、
「はあ、はあ、はあ……なんとか道に出られたな、ラウル」
「え、ええ、どこかに人は――あっ! バレット様!」
現れたのは聖騎士クラウスさんとその弟子で主人公のラウルだった。
確か、夏休み中は修行の旅に出ているんじゃなかったか?
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