第72話 嫌われ勇者と消えた五人目
衝撃の出会いから一夜が明けた。
彼女――ユーリカは本当に勇者パーティーのユーリカなのか。
原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、
その疑問を解決するために、もっと彼女のことを知りたかった。
なので、俺は朝一にこっそりレストランを訪ねてみた――が、店主から意外な事実を告げられた。
「ユーリカ? あの子なら昨日でこの店を辞めていったよ」
「や、辞めた?」
「ああ。モンスターの襲撃を受けたと聞いた時は驚いたが、無事で何よりだったよ」
おいおい、マジか……。
「そ、それで、彼女は今どこに!?」
「さあ……? なんでも、新しい仕事が見つかったとか。いや~、惜しかったなぁ。とても働き者でいい子だったんだけど」
「そんな……」
ユーリカの謎は一層深まり、そして行方知れずとなった。
もしかしたら、まだ近くにいるかもしれない。
そう思って捜そうとしたが、
「よし、忘れ物はないな?」
「バッチリですよ、ウォルター先生」
「私もOKです!」
すでに帰宅する流れになっていた。
って、そりゃそうか。
元々は昨日帰る予定だったわけだし……しかも、俺とティーテはこのまま別荘地へ移動することになっていて、向こうにはすでに両親+レイナ姉さんが先乗りしている。それに……ティーテとの絶好のいちゃいちゃイベントをスルーするわけにはいかなかった。
仕方がない。
今は一旦この場を離れよう。
ここにマリナたちを派遣して様子を探らせたいところだけど……ティーテ以外の女子の動向を探れといっても怪しまれるだけか。まさか、将来的にパーティーを組むなんて言っても信じられないだろうし。
ただ、もし本当に彼女が本物(?)のユーリカだとして、原作版のバレットとどこで接点を持ったのだろう。
今回のような討伐バイトに原作バレットが参加するとは思えないし、そもそもテシェイラ先生が推薦するとは思えない。だとすれば、ふたりはもっと別の場所で出会った可能性があり、その出会いイベントが、これから先、俺が体験することになるかもしれない。
だとすれば、その時がチャンスだ。
……ただ、ラウルやジャーヴィスと違って、原作での描写がめちゃくちゃ少ない子だからなぁ。
正直、まったく本質が読めない。
少しだけ言葉を交わした程度だし……あの時、猫を被っていた可能性もある。
ともかく、何もかもが不透明だ。
もうしばらくは様子を見るとするか。
◇◇◇
俺とティーテは別荘に向かうため、ウォルター先生たちとは別行動を取ることになった。
「って、ウォルター先生は帰らないんですか?」
俺とティーテ、そして同じく実家へと戻る予定のジャーヴィスがそれぞれの馬車に乗ろうとした時、ウォルター先生が乗るはずの馬車がないことに気づいて尋ねる。
「うん? あー……まあ、な」
いつも豪快なウォルター先生らしくない歯切れの悪い答え方。
すると、ジャーヴィスがトントンと俺の方を指で叩く。
「ウォルター先生、ここでテシェイラ先生とバカンスを楽しむつもりらしいよ」
「……マジか」
テシェイラ先生とウォルター先生が、ねぇ……。
同じ学園出身で、大人になっても同じ職場。
噂ではお忍びでデートをしていたとかいないとか。
しかし、ゴリゴリの肉体派であるウォルター先生と超絶インドア派なテシェイラ先生がねぇ……いくら長い付き合いだからって、タイプがまったく違うからなぁ。
というか、そもそも原作ではテシェイラ先生ってラウルのハーレム要員だし。
「意外だなぁ……ああ、でも。逆にタイプが違うと盛り上がったりするのかな」
「…………」
「? ジャーヴィス?」
「……僕と彼はタイプ的に丸被りのような……しかしそれを言うならティーテも……」
「何を言っているんだ?」
「っ! な、なんでもないよ! じゃあ、僕はこれで」
「あ、ああ、休み明けにまた会おう」
「……そうだね」
うん?
なんだか今、少し間があったような……気のせいか?
ウォルター先生とテシェイラ先生の逢引きも気になるところではあるが、迎えの馬車も来たことだし、俺たちも行くとするか。
「さあ、ティーテ」
「ありがとうございます♪」
ティーテをエスコートして馬車へ。
ここから別荘地まではそう遠くはない。
とはいえ、せっかくふたりきりになれる空間……思えば、学園ではあまりふたりきりにはなれなかったな。大体近くにはジャーヴィスかラウルがいた。ジャーヴィスとか、クラス違うのに気がつくとそばにいたな。まあ、パーティーメンバーとして仲良くやれていることはいいことなんだけどさ。
だからこそ、ここではティーテとしっかり関係を深めていかなくては!
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