第71話 五人目
【お知らせ】
書籍作業に入ますので、来週より毎日投稿ではなく、1~2日に1話投稿のペースになると思います。
よろしくお願いします!
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ついに現れた勇者パーティーの五人目――ユーリカ。
白い肌に少しだけ吊り上がった目。
ピジョンブラッドのルビーを彷彿とさせる赤い髪をツインテールにまとめている。
年齢は俺とそう変わらないくらいか。
少し大人びて見えるが、その顔つきには一握りほどの幼さが残る。
容姿をトータルで評価するならば「可愛い女の子」が正しいか。
なるほど。
だからバレット(前)の毒牙にかかったのか。
――いや、待て。
まだそうと決まったわけじゃない。
原作において、もっとも存在感が薄い――じゃなくて、もっとも語られることがなかったメンバーであるユーリカは、とにかく情報が少ない。パーティーメンバーで唯一、個別のエピソードがなかったし、ぶっちゃけ数合わせで入れた感が否めないキャラだったというのが大方の意見だろう。
なので、まだ彼女が勇者パーティーのユーリカであるかどうかは断言できない。
ここは慎重に対応しないとな。
「あ、ああ、ユーリカっていうのか。俺はバレット。バレット・アルバースだ」
「! バ、バレット・アルバース!?」
えっ?
何そのリアクション……驚きすぎじゃないか?
「え、えっと……どこかで会ったっけ?」
「い、いえ、お会いしたことはありませんが、アルバース家といえばこのブランシャル王国でも名門と名高い一族ですので……」
そういえばそういう設定だったな。
ジャーヴィスをはじめ、学園にいる周りの生徒たちは家柄の良い子が多かったので(ラウルは例外だけど)、ここまでの反応は初めてかもしれない。
でも、一般庶民からすれば、この反応が当然なのかな?
学園にいた時は広大な敷地から外に出ることはなかったし。
「どうしてこんなところに!? あっ! そうか! バカンスですね! 今は夏ですから、学園もお休みなんですよね!」
「あ、ああ、まあ……」
思いのほかグイグイ来るな、この子。
「そ、それはそうと、ユーリカはどうしてあんなところにいたんだ?」
「私ですか? バイトです!」
「バイト?」
バイトって……まさか、俺たちと同じでモンスター討伐――なわけないか。ユーリカはうちの学園の生徒じゃないみたいだし、何より戦闘経験がなさそうだ。
「バイトって、どんなバイトなんだ?」
「海藻集めです!」
「か、海藻?」
「はい! 近くのレストランで出すサラダに使う海藻です!」
それって……俺たちが昼食で立ち寄ったあのレストランのか?
「最近はお客さんが減って、お店も経済的に厳しいみたいですが……こういう時こそ、お客様にしっかりサービスをして店を覚えてもらわないと!」
「そ、そうなのか……」
……あれ?
この子……やっぱり原作にいたユーリカとは別人なのか?
正直、この健気なバイト少女と大貴族であるバレット(前)の接点が思いつかない。
この段階で、原作のバレットには多くの女子が言い寄るようになってきている。どの子も家柄がしっかりした貴族の娘だ。
そんな子たちを侍らしておきながら、ここへきて一般庶民に手をつけるだろうか。
そりゃあ、まったくもって可能性がないとも言い切れない。それくらい、バレットは女性関係にだらしないクズ野郎だったし。
……やっぱり、原作で勇者パーティーにいるユーリカとは別人のようだな。
「では、あたしはこれで失礼します」
「大丈夫か? 怪我がないとはいえ、モンスターに襲われたんだ。今日はここで泊っていけばいい。料金のことは気にしなくていいから」
「お気持ちはありがたいのですが……どうにも慣れなくて」
照れ臭そうに笑うユーリカ。
慣れないって……そうか。ここは一応リゾート地の宿屋。恐らく、一般的な町にある宿屋よりも高額なのだろう。
ユーリカはもう一度深々と頭を下げて宿屋を出ていった。
「……バレットが狙うとは到底思えないな」
果たして、本当にあの子が勇者パーティーのユーリカなのか。
もう少し、彼女について探ってみることにしよう。
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