第70話 嫌われ勇者、宴会を満喫する

【お知らせ】


 いつも「嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します! ~すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい!~」をお読みいただき、ありがとうございます。


 タイトルや近況ノートでもお知らせしましたが、このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。


 これもお読みいただいたみなさまのおかげです!


 レーベルなどの詳しい情報はもうしばらくお待ちください。


 書籍版ではバレットとティーテのいちゃつきが大幅増の予定です!


 今後も本作をよろしくお願いいたします!



…………………………………………………………………………………………………




「そうだったか……俺がいない間に、随分と頑張ってくれたんだな」


 ウォルター先生が戻ってきてすぐに、クラーケン退治の件を報告する。その際、ジャーヴィスが「僕は何もしていませんよ。すべてバレットの功績です」と伝えた。


「さすがは聖剣に選ばれし勇者だな。すでにその片鱗が覗き見えるってもんだ」


 いつものように豪快に笑い飛ばすウォルター先生。

 まあ、褒められて悪い気はしないよ。

 ――でも、それより、


「さすがですね、バレット♪」


 ティーテに褒められる方が万倍嬉しいけどな。

 ともかく、これにて事件は一件落着。

 最初は陰謀論みたいなのを疑ったけど、すんなりと討伐を果たせられたことを考えるに、ただ討伐対象のクラーケンが見つかりにくかったというだけだったな。町長もとても喜んでくれて、この町の最高級宿屋の宿泊券を全員にくれたほどだ。


 これ自体も、今後ティーテのデートで使えそうだという有用性があるのだが、俺としては別の報酬が気になっていた。

 こいつについては、すでにこっそりとウォルター先生に相談済み。

 この場で受け取るといろいろとまずいので、長期休暇明けにいただくことになっていた。その報酬は、今すぐに必要って物じゃないが、将来確実に必要となる物ものである。



 と、いうわけで、手に入れたい物は入手できたので、俺としては万々歳に終わった夏のバイトだが、思わぬ事態が待ち受けていた。


 それは岩場でクラーケンに襲われていた謎の女子。


 所持品がなかったため、身元が分からずじまいだった。

 今は町の診療所で眠っているが、正体不明の少女という存在はあまりに不気味だと、彼女が意識を取り戻すまでの間、俺たちもここへ残ることにした。

 だが、町へ残ったのはそれだけが理由じゃない。




「さあさあ、たくさん食べてくださいよ!」


 村の集会場で開かれた大宴会。

 そこへ招待されたのは俺、ティーテ、ジャーヴィス、ウォルター先生の四人――つまり、討伐に参加した者たちだ。

 そう。

 これはモンスター討伐の労をねぎらうための宴会だったのだ。


「我が町自慢の海鮮料理ですよ。是非ご賞味あれ」


 町長が言うと、俺たちのもとへ次から次へと料理が運ばれてくる。


「す、凄い……」

「見事な魚介類の数々……僕らでも滅多に味わえない高級食材ばかりだ」


 その豪華さに、ティーテとジャーヴィスは圧倒されていた。

 一方、ウォルター先生は酒を振る舞われ、すでに出来上がっている。

この人、引率の意味分かっているのか……?


 でもまあ、これだけ豪勢な料理を目の前にしたら、少しくらい羽目を外して楽しみたいって気持ちもあるだろう。それについては分からなくもない。


 実際、料理はどれもめちゃくちゃおいしかった。

 それに、町の人たちが「ありがとう!」と代わる代わる俺たちのもとを訪ねてきてお礼の言葉を贈ってくれた。


 それが嬉しくて、ついつい町の人たちと話し込んでいると、


「バレット~♪」


 背中にトスンと軽い衝撃が。

 

「! ティ、ティーテ!? どうしたんだ!?」


 ティーテが頭を俺の背中に預けていた――が、その顔は真っ赤に染まっている。おまけにこの臭いは……


「ま、まさか、お酒を?」

「いや、そうじゃないよ」


 近くにいたジャーヴィスが飲酒を否定するが、これはどう見ても酔っ払っている状態に思えるのだが。


「彼女はお酒を一滴も飲んでいない。ただ、ちょっと臭いを嗅いだだけだ」

「臭いをかいだだけでここまで酔うの!?」


 まあ、どう見てもお酒に弱そうだもんな、ティーテって。


「ジャーヴィス、俺は一旦ティーテを宿屋に寝かせてくるよ」

「分かった」


 このままここにいさせるのもよくないだろう。

 俺は今にも眠ってしまいそうなティーテをお姫様抱っこし、今日の宿泊先である宿屋に向かった。


 

  ◇◇◇


 

 宿に着くと、受付でティーテの部屋の場所を聞きだし、その部屋のベッドに寝かしつけて退室する。


「ふにゃ~……」

「幸せそうな寝顔しちゃって……」


 思えば、原作のティーテはバレットとラウル――どちらと結ばれても幸せだとは言いづらかった。冷たく当たり、落ちぶれるバレットは当然ながら、次から次へと新しいヒロインが登場して影が薄くなっていくラウルルートも決してハッピーエンドというわけじゃない。


 今、この時に見せてくれている寝顔のように、幸せそうなティーテの姿をいつまでも眺めていたい。

 そのためには、俺が頑張らなくちゃな。


 きちんと鍵を閉めてから、会場へ戻ろうとすると、



「あの」



 声をかけられた。

 振り返ると、そこにはひとりの少女が――この子は、


「君は……クラーケンに襲われていた……」

「はい! あの時は助けていただき、本当にありがとうございました!」

 

 そう言って、深々と頭を下げる少女。

 俺は「気にしないで」と言って彼女に頭をあげるよう声をかけたが――次の瞬間、少女は思わぬ言葉を口走る。


「あたし、ユーリカって言います!」

「!?」


 ユーリカって……おいおい、マジか。

 この子が最後のパーティーメンバーだっていうのか……?

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