第67話 嫌われ勇者、バイトをする
「そうか。帰省するのか」
試験を終え、いよいよ夏の長期休校が目前に迫った頃、俺はテシェイラ先生の研究室へと足を運んだ。
――というか、いきなり呼び出されたのだ。
「ええ。家に戻った後、避暑地にある別荘に移動して過ごそうと思っています」
「それはいつからだ?」
「父が他領地への視察を終えて戻ってくるタイミングに合わせて、俺たちも家に帰るつもりでいます。一週間後くらいですかね」
「俺たち?」
「ああ、ティーテも一緒に行く予定になっているんです」
「ふーん……去年に比べると信じられないくらい仲睦まじくなっているね、君たちは」
テシェイラ先生がそう言うのも無理はないか。
何せ去年は――いや、考えるのはよそう。
去年までのバレットはバレットであってバレットじゃない。
今はティーテとの幸せを第一に考えて行動しているのだ。
「ラウルは休みに入った途端、クラウス殿と一緒に修行の旅に出てしまったし、魔剣も聖剣もなくなっては私の楽しみがなくなってしまうな」
乾いた笑いを浮かべるテシェイラ先生。
研究対象がいなくなるのは、やはり学者としてガックリくるものなのかな。
「って、そうだ。今日君を呼んだのは別件についてだった」
「別件?」
そういえば、まだ本題について何も聞いていなかったな。
「そうなんだよ。バレット……実家へ戻る前にアルバイトをしてみないか?」
「アルバイト?」
「うむ。君の場合は金銭に困っているわけじゃないので謝礼は――これでどうかな?」
「!? こ、これは……」
テシェイラ先生が差し出した一枚の紙。
そこに記されたのはアルバイト内容と報酬。
それを目にした途端――俺はすぐさま承諾した。
◇◇◇
二日後。
「バレット~♪」
無邪気にはしゃぎ、こちらへ向かって手を振るティーテ。
俺はそれに応えて手を振るが、表情は緩み切っていた。
なぜなら、その姿は眩しい水着姿……いわゆるワンピースってヤツかなぁ……視線を外せなかったのだ。まさかこんなに早く拝めるなんて。眼福。
「まるで生きる宝石だ……」
「何を呆けているんだ?」
「うわっ!?」
背後からボソッとジャーヴィスが呟く。
「まったく、君という男は……」
「これは男の性分だよ」
「……だったら、僕にも何か言うことがあるんじゃないかな?」
そう言って、水着を見せつけるようにポーズをとるジャーヴィス。
「うん。男物の水着を着ていても違和感が薄い。さすがだな、ジャーヴィス」
「……ああ、そう」
どうやら、俺の誉め言葉はお気に召さなかったらしく、頬を膨らませている。
――と、いうわけで、今回のバイトは俺とティーテ、そしてジャーヴィス、おまけの引率ウォルター先生の四人で挑むこととなった。
さて、その場所とバイト内容だが……近くの漁港に出現したモンスターの討伐である。
こういった、生徒と教師によるモンスター討伐の仕事は時々行われているらしい。ただ、俺たちの学年で挑戦するのは随分と久しぶりのことだとウォルター先生から聞かされた。
「それだけおまえたちの実力が抜きんでているということさ」
そう語ったウォルター先生も水着を着用。
ムキムキボディにブーメランパンツ……別の意味で目のやり場に困るスタイルだ。
ちなみに、俺とジャーヴィスも水着に着替えている。
最初は漁港って話だったが、依頼してきたこの町の町長によると、被害の規模としては近くにある観光用ビーチの方が深刻らしい。というわけで、俺たちは一般客を装ってここへやってきたのだ。
それと、当たり前のことだが、水魔法演習の時同様、ジャーヴィスはきちんと胸まで隠れる水着だ。事情を知らないウォルター先生は「変わった水着だなぁ」と不思議がったが、俺とティーテでなんとか誤魔化した。
「でも、モンスター討伐をするっていうのに、こんなのんびりしていていいのかな」
「一応、学園はすでに長期休校に入っているから問題ないんじゃないかな? 何より、ウォルター先生が浮かれているし」
「……だからこそ、俺たちがしっかりしなくちゃいけない気もするが」
モンスターが相手となったら、気を引き締めていかないと――
「バレット~♪ ジャーヴィス~♪ 一緒に泳ぎましょうよ~♪」
「前言撤回。俺も泳ぐ」
「君のその素直なところは尊敬に値するね」
一般客を装わなくちゃいけないなら、ここはむしろ遊ぶべきだな。
それに……俺としては報酬のためにも、ここに出るモンスターを蹴散らす必要があるのだ。
さあ、いつでも来い!
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