第65話 嫌われ勇者、婚約者に真実を告げる
授業が終わり、夕食をとってから、いつものようにティーテと一緒に課題に取り組んだ。
場所はもはや御馴染みとなった談話室。
――ただ、今日はこの後に特別ゲストを呼んでいた。
「ふぅ……やっと終わった」
「お疲れ様です。コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「ありがとう。いただこうかな」
誰もいない、ふたりだけの談話室。
暖かくてゆったりとした時間が流れている。
このまま永遠にこの空間で生き続けたいとさえ思えるほどだ。
だが、今日に限ってはいつもと状況が異なる。
「……そろそろかな?」
「えっ?」
コーヒーを淹れてきてくれたティーテが不思議そうな顔で俺を見る。その時、
コンコン。
控えめにドアをノックする音が。
「あれ? マリナさん? ……まだ時間じゃないはずですけど」
「いや、今日は俺が人を呼んだんだ」
「バレットが?」
突然の来客に、ティーテはちょっと驚いた様子。
……この後の告白を聞いたら、下手をすると倒れるかもしれないな。
そんな不安がよぎりつつも、訪ねてきた人物を招き入れるため、俺は「入ってくれ」とドアに向かって告げる。
すると、ドアが開き、客の正体があらわとなった。
「? ジャーヴィス?」
ティーテはなんの脈絡もなく現れたジャーヴィスにただただ困惑していた。おまけに、そのジャーヴィスの顔は深刻を通り越して青ざめている。きっと、これからする告白に対して緊張しているのだろう。
前にも言っていたが、ティーテならばきっと受け入れてくれる――そう思っていても、やはり緊張や恐怖といった感情が芽生えるものなのだろう。
「ど、どうしたの? 顔色がよくないみたいだけど……」
「あ、ああ、問題ないよ……」
チラリと俺へ目配せをするジャーヴィス。
なかなか言い出すきっかけが掴めないようだな。
「立ち話もなんだから、入ってくれよ」
「う、うん」
「ティーテ……実は、ジャーヴィスからちょっとした発表があるんだ」
「発表……ですか?」
キョトンとした表情で俺とジャーヴィスを交互に見やる。
とりあえず、俺はジャーヴィスを部屋に入れてイスに座らせると、コホンと咳払いを挟んでから切り出した。
「今から知ることは、誰にも言わないでくれ」
「な、なんですか……急に怖くなってきました……」
む?
ちょっと言い方をミスったかな?
「バレット。ここからは僕が話すよ」
俺を制止したジャーヴィスは真っ直ぐにティーテを見つめて口を開く。
「ティーテ……」
「は、はい」
「信じられないかもしれないけど、僕は――実は女なんだ」
「へっ……?」
オブラートに包むこともせず、真実だけをシンプルに伝えた。
その結果、ティーテは脳の情報処理が追いつかないらしく、無言のまま身動きひとつ取らない。
流れる沈黙。
やがて、それはティーテ自身によって破られる。
「えっと、その……女性? ジャーヴィスが?」
「うん。家庭の事情ってヤツでね。本当は秘密にしておかなくちゃいけなかったんだけど、ひょんなことから、バレットにはバレてしまってね」
あ、やっぱりそうなのか。
となると、ジャーヴィスの考えひとつで女子として生きていく道に戻るということは難しいかな。
これまでの経緯から、ジャーヴィスは別に男として生きていきたいというわけじゃなく、家の都合で仕方なくそうした言動を取っていると推測していたが、どうやらそれは確定のようだな。
ジャーヴィスのシンプルな告白が終わると、今度は俺がティーテに提案をする。
「そういうわけで、俺はこれまでジャーヴィスが女だとバレないようにいろいろと手伝ってきたわけだが、それもそろそろ限界でな……是非とも、同じ女子であるティーテにも協力を要請したい、と」
「な、なるほど……そういった事情でしたか」
ある程度時間が経ち、ティーテも事態を呑み込めてきたようだ。
その結果、下した判断は――
「私も手伝います!」
予想通りの答えだった。
「男の子には相談しにくいことがあったら、私のところまで来てください!」
頼もしく胸を叩くティーテに、ジャーヴィスは深く頭を下げて「ありがとう!」と礼の言葉を述べる。
心配は杞憂だったな。
俺としては分かりきった結果だったけど、ジャーヴィスからしたらようやくホッとできたということだ。
「あ、あの……ティーテ」
「何?」
「早速相談したいことがあるんだけど……その……」
ジャーヴィスが申し訳なさそうに俺を見る。
ああ、はいはい。
男子禁制の話題ってわけだ。
というわけで、部屋を出ていった――直後、うちのメイド三人組とバッタリ遭遇。代表してマリナが「奇遇ですね」と引きつった表情で言っていたけど……盗み聞きをしていたな?
とりあえず、事情聴取から始めるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます