第63話 嫌われ勇者、張り切る

 なんとか着替え終えたジャーヴィスだが、まだまだ油断はできない。

 俺も細心の注意を払って、ジャーヴィスがボロを出さないようにしなくては……妙な緊張感を抱いたまま、初めての水魔法実習が始まった。


 まず、指導役の教師がプールに向かって魔力を注ぐ。

 すると、徐々に水面が盛り上がっていき、やがて大きな水柱ができる。天を貫かん勢いで伸びるそれは、再び大きく形を変え、最終的に巨大な水の狼となって教師の前に跪く。


 これが、演習の課題。


 水に魔力を与えることで、形状を変え、さらにはまるで生き物のごとく動き回らせること。

 例えば、水で生み出した剣とか弓とか盾とか、そういった無機物であれば難易度は別段高くない。現に、大半の生徒はそういった物を生み出している。


 ただ、先ほど教師が示したように、生物を対象とするとかなり高度が技術が必要になってくるのだ。


「次、ラウル・ローレンツ」

「はい!」


 俺とジャーヴィスよりも先に、ラウルが呼ばれた。

 原作【最弱聖剣士の成り上がり】同様、聖騎士クラウスのもとで修業を積んでいるラウルだが……果たして、どこまでレベルアップできているのか。


「いきます……」


 魔剣を構えて、目を閉じるラウル。

 しばらくすると、全身から魔力が溢れてくる。


「こ、これは……」


 教師は思わず驚きの声をあげる。

 俺も驚いた。

 これまであらゆるステータスが最低値だったはずのラウル。だが、聖騎士クラウスとの猛特訓を経て、今やその能力値はクラスでもトップクラスにまで上昇していた。伸びしろがあったってことなんだろうけど……それを見抜いた聖騎士クラウスはさすがだな。


「はあっ!」


 ラウルが魔力を練って生み出したのは――鳥。

 水の鳥は優雅に空を舞い、ラウルの前に降りてくると、忠誠を誓うようにペコリと頭を下げた。


「見事だ、ラウル・ローレンツ!」


 教師が拍手をすると、クラスメイトたちからも同じように拍手が送られる。ラウルは照れ臭そうに笑いながらも、嬉しそうだ。


 ……よかった。

 暴走事件直後は、邪険にされていたようだから、ここまで馴染めて本当によかったと思う。


「次、ジャーヴィス・レクルスト」

「はい!」


 続いて、ジャーヴィスの出番が回ってきた。

 男子でありながらも中身は女子。

 なので、水着は全身を覆うタイプのデザインだ。

 ……いくらサイズが慎ましいからって、さすがにさらけ出すわけにもいかないしな。

 ところが、


「な、なんか……今日のジャーヴィス変じゃね?」

「あ、ああ、なんというか……」

「言葉には表せられないが、見ていると不思議と顔が熱くなる」

「な、なんだろうな、この感覚」


 数名の男子生徒が異変を訴えている。

 ……これ、もしジャーヴィスが女子だって打ち明けたら、絶対性癖捻じ曲がるヤツが出て来るぞ。


 そんな心配をよそに、ジャーヴィスが魔力を練って水の蛇を生み出す。そのサイズはラウルの鳥よりもずっと大きい。


「おおっ! これまたお見事! 今年は優秀な生徒が多いな!」

 

 絶賛の教師。

そして、拍手喝采のクラスメイト。

 ……なんか、出づらいなぁ。


「次、バレット・アルバース」

「はい!」


 とうとう俺の番が来た。

 ラウルもジャーヴィスも、着実に力をつけてきている。

 聖剣を授かった身として――俺も負けちゃいられないな。


「はっ!」


 俺は聖剣に込めた魔力を開放する。途端に、プールの水は渦を巻き、水柱を生み出した。それはやがて姿を変えていき――最終的に巨大なドラゴンの姿となる。

 うん。

 聖剣の力は絶好調だ。


「「「「「うおおおおおっ!?」」」」」


 派手にやりすぎたせいか、生徒の中には驚きと同時に、その場から逃げだそうとする者もいた。きちんと魔力制御できているから、凶暴な見た目の割にちゃんと言うことは聞くから襲うこともない。――俺が命じなければ、ね。


「さすがです、バレット様!」

「やれやれ、最後に全部持っていかれたな」


 ラウルははしゃぎ、ジャーヴィスは呆れたように言う。

 何はともあれ、うまくいったようでよかったよ。

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