第59話 嫌われ勇者、婚約者と約束をする
日を追うごとに、気温は高くなっていく。
そう。
夏が近づいているのだ。
休み時間、俺はティーテと話し込んでいた。
その内容は、夏季の長期休暇について。
「なあ、ティーテ。今年の夏の長期休暇はうちの別荘で過ごさないか?」
「! い、行きたいです!」
アルバース家の別荘はここから東へ進むと見えてくる大きな湖のほとりにある。うちは毎年そこで夏を過ごすのだが、今年は是非ともティーテと一緒に行きたい。舞踏会前に向こうの屋敷で世話になったわけだしな。
俺がそう提案すると、ティーテは即座にOKを出し、それからはずっと上機嫌だった。すると、
「あなたたち……本当に見違えるくらい仲良くなったわね」
呆れたように、クラス委員長のクライネが言う。その横には、もはや当たり前のようにメリアがいた。バレット(前)に迫られていたが、それを謝罪して以降はこうして普通に絡んだりもする。
「まあね。君たちには負けないよ」
「! 言ってくれるじゃない……私のメリアへの気持ちは誰にも負けないわ!」
「いいや、俺のティーテに対する想いの方が強いね」
俺とクライネの間で飛び散る火花。
「私はメリアの可愛いところを十個言えるわ」
「俺ならティーテの可愛いところをニ十個は言えるね」
「なら三十個よ!」
「こっちは五十だ!」
ヒートアップする俺とクライネ。
それを真っ赤になりながらもジッと見つめるティーテとメリア。周囲の生徒たちからは「またか」というため息が漏れ聞こえた。
結局、俺とクライネのにらみ合いは、次の講義の担当教諭が教室に入ってくるまで続いたのだった。
――授業中。
俺の頭に、授業の内容はあまり入ってこない。
ティーテと過ごす夏。
別荘でふたり……これはもう、何も起きないわけがない。
湖のほとりでキャッキャとはしゃぐ姿が目に浮かぶよ。
あまり変な妄想――もとい、想像をしているとおかしく思われるので、脳内話題をチェンジしよう。
そうなると、次に考えてしまうのは、どうしても勇者パーティーの五人目についてとなってしまう。
そのパーソナルデータを思い出そうとしてみたが……これが思いのほか難航した。
……というか、ぶっちゃけまったく印象に残らないキャラだ。
バレット(前)の右腕だったジャーヴィス。
主人公ラウル。
ヒロインのティーテ。
この三人がだいぶ濃いキャラづけだったこともあって、最後のひとりは非常に影が薄かった印象だ。
名前は確か、ユーリカといったか。
他の三人と違って、外見の特徴も書かれていなかったな。しいてあげるなら、「勇者パーティーの魔法使い」ってくらいか。
基本的に、バレット(前)とジャーヴィスがラウルを貶し、それにユーリカも加わっているという構図がほとんどだった。悪い言い方をすれば、バレット(前)とジャーヴィスの腰巾着ってところか。
唯一ビジュアルも公開されていないし……ユーリカって名前と魔法使いって情報だけじゃ絞り込めないよなぁ。
単純に、学園を出た後で仲間にした可能性も捨てきれないし。
考えに詰まった俺は、何気なく視線を動かす――と、その時、偶然にもジャーヴィスと目が合った。
「~~~~」
ジャーヴィスはすぐに目をそらす。
……なんていうか、あれからジャーヴィスとはなんか気まずいんだよなぁ。ラウルの方は相変わらず忠犬って感じがするくらい懐いているみたいだけど。
まあ、いずれにせよ、慌てたところで状況が改善するわけじゃない。
ティーテとの楽しい別荘休暇……早くその時が来ないかなぁ。
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