第58話 嫌われ勇者と最後のひとり
学園は舞踏会の話題で持ちきりだった。
ただ、こうして学生たちの間で話題になるのは毎年のことなので、それ自体は決して珍しい現象とはいえない。問題は、その中身だ。
「恐ろしい魔獣が潜んでいたらしい」
「本当に学園は安全なのだろうか……」
「でも、バレットやジャーヴィス、それと、例の魔剣使いが瞬殺したってウォルター先生が言っていたぞ」
「それは凄いな……」
「貴族ふたりは納得できるが、あの成績下位の魔剣使いがねぇ」
ウォルター先生の計らいにより、昨夜、舞踏会の会場近くに現れた魔獣は俺たちが撃退したという事実が公開された。その結果、周囲の視線が容赦なく注がれることとなるのだが……俺にとってはイメージアップになって喜ばしいし、暴走事件を起こしたラウルへの評価も上昇した。
元々好感度が高かったジャーヴィスはさらに上昇し(特に女子から)、その人気を不動のものとしていた。
……これでいい。
ジャーヴィス・レクルストという男――じゃなくて、女の子は、バレット(前)の意のままに操られ、悪事に手を染めるより、今みたいに登校中、女子たちから黄色い歓声を浴びながらクールに手を振るくらいがちょうどいいんだ。
「ジャーヴィスくんは相変わらず凄い人気ですね」
隣を歩くティーテは、ジャーヴィスの凄まじい人気に唖然としていた――が、すぐにぷくっと少し頬を膨らませて、
「でも、バレットだって頑張って戦ったのに……」
どうやら、ジャーヴィスが女子たちからキャーキャー騒がれているのに対して、同じく現場にいて魔獣と戦った俺への態度との差が大きいことに不満を持っているようだった。
「まあまあ、ジャーヴィスは元から人気者だからな」
「それはそうかもしれないですけど……」
「じゃあ、もし俺がジャーヴィスみたいに女の子たちからキャーキャー言われたら――」
「っ! そ、それは困ります!」
物凄い勢いで反応してきた。
当然ながら、たとえその状況になったとしても、俺のティーテへ対する気持ちは一ミリだって揺るがないのだが。
「大丈夫だよ。そんなことにはならないから」
「うぅ……」
まあ、確かに、今回の一件で俺の好感度が上昇したという点はあるのだろうが、ジャーヴィスみたいに黄色い声援が飛び交うなんてことはないだろう。俺への評価は、そういったベクトルじゃないだろうし。
――ただ、ジャーヴィスに関してはまだ不透明なところが多い。
俺はそれが気になっていた。
一番気にかかっているのは「なぜジャーヴィスが男としてこの学園に通っているか」なのだが、これについては見当がついていた。
原作である【最弱聖剣士の成り上がり】では、ジャーヴィスの家は弱小貴族であり、他に兄弟はなく、ひとりっ子という設定だったはず。
もし、レクルスト家当主――つまり、ジャーヴィスの父親が家を残すために男でいるよう強要していたとすれば……ここでの生活を通し、培ってきた情報を総合すると、当主がそうした思考に至る可能性はまったくないと言い切れない。
家を守るために男を演じている。
だが、それはあくまでも仮初めの姿。
いくら完璧に演じていたとしても、いずれバレることだ。
それでもジャーヴィスは必死に男であろうとする。
俺としては、その姿を純粋に応援したいと思う。
そしてもうひとつ……勇者パーティー最後のひとりについて。
今のところ名前さえ聞かないが、原作の情報から、学園時代に会っているはずなのだ。つまり――この学園のどこかにいるのは間違いないはず。
早いところ、《彼女》とも合流しておきたい。
ティーテ、ジャーヴィス、ラウル……原作での勇者パーティーは、現段階で理想的な成長曲線を描いている。ティーテ以外のふたりとはすでに実戦も経験しており、原作での流れから想定するに、これからもその機会はありそうだ。
しかし、未だ名前すら出てこない最後のひとり――《彼女》については接点がない分、少し不安になってくる。
「……少し、探ってみるか」
教室に入り、イスに腰かけながら、俺は独自の捜査網で最後のひとりの情報を集めることを決めたのだった。
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