第54話 嫌われ勇者パーティーの初陣
突如現れた正体不明のモンスター。
さまざまなモンスターの部位を合成して生み出されたような姿に、俺たち四人は驚きで声も出なかった。
しかし、こいつが舞踏会の会場――ていうか、学園に押し寄せたらとんでもない事態となってしまう。それを察して、俺たちは叫ぶモンスターと対峙した。
「まずは僕がいきます!」
先手を取ったのはラウルだった。
原作通り、聖騎士クラウスとの修行により、魔剣の力をある程度コントロールできるようになったラウルは、パワーで合成魔獣を圧倒。さらに、
「次は僕がいこう」
重いダメージを負ったモンスターに対し、今度はスピード自慢のジャーヴィスが仕掛ける。相変わらずの美しい剣技で、徐々に相手の体力を削っていき、最後は背中に斬りつけ、大きな傷を負わせた。
やるな、ふたりとも……こうなったら、俺も負けていられない。
「はあっ!」
短い雄叫びの後、聖剣に込められた魔力が凄まじい勢いで溢れ出る。俺はそれを風属性へと切り替えると、軽く剣を振った。
たったそれだけの動作――だが、その直後、モンスターの体には無数の切り傷ができて出血している。そのダメージはかなり大きかったようで、巨体は力なく膝から崩れ落ちる。
「す、凄いな……何をしたんだ?」
不思議そうに尋ねてくるジャーヴィスへ、俺は淡々と答える。
「斬撃を飛ばしたのさ」
遠距離から敵を仕留める飛び道具。
こいつで敵にダメージを与え、弱ったところに拘束魔法を使って動きを封じる。
瞬殺。
厳密には殺していないけど、時間と手間をかけず、最短最良の方法で暴れ狂うモンスターを鎮静化させることができた。
「凄いです、バレット様!」
「即席チームにしてはなかなかいい連携だったね。――どうでしょうか、ウォルター先生」
「うむ。見事だ。それに、殺さなかったのはこいつを俺たちに調べさせるため――だろ?」
「ええ。お願いします」
こんな奇天烈なモンスターがなぜ学園に存在していたのか。それを調べる上でも、生け捕りがベストだろうと選択しての戦闘だった。
「まったく……たいしたヤツらだよ」
ウォルター先生からのお墨付きをもらえたし、上々の戦果といえるな。
……て、よく考えたら、この三人は原作における勇者パーティーの面々だな。ここにティーテと、あともうひとりを加えた合計五人で、俺たちは旅に出る。
そういえば、あとひとり――【あの子】の名前をまだ聞いていない。
まあ、バレット(前)率いる勇者パーティーは原作だと壊滅している、いわばやられ役なので、各キャラの詳しい素性などは明かされていないが……【あの子】は学園の生徒じゃないのかもしれないな。
しばらくすると、他の教師や騎士団が駆けつけた。
見たこともない巨大なモンスターであったが、学生たちが力を合わせて撃退したということで、到着した人々は驚いていた。
事後処理を彼らに任せ、俺たち生徒は一旦現場から戻されることとなった。
舞踏会の会場では、すでに生徒たちが帰り支度をしているようで、少し慌ただしい様子。無理もないか。
ただ、せっかくの舞踏会が中途半端な形になってしまったことにガックリとした生徒たちを見かねた生徒会は、会長であるレイナ姉さんが新たに別のイベントを開催すると宣言。それを聞いた生徒たちの表情は幾分か明るくなった。
さて、俺はというと――
「バレット!!」
名前を叫ばれて振り返ると同時に、胸辺りに強い衝撃が。
「ティ、ティーテ……ただいま」
「け、怪我とかされていませんか!?」
「大丈夫だよ。変なモンスターがいたけど、みんなでサクッと倒してきたから」
「よかったです……バレットの身に何かあったら、私……」
「ティーテ……」
そのまま、ティーテが落ち着くまでギュッと抱きしめる。正直、戦闘後で汗だくなのでそっちの心配が勝っているが……。
後から来たラウル、ジャーヴィスと目が合ったが、ふたりとも気を遣ってサムズアップをしながらフェードアウト。
その後、ティーテはエーレンヴェルク家のメイドさんたちと共に一旦部屋へと戻った。俺はというと、先ほどの戦闘で汗をかいてしまったので、風呂に入ろうとしたが、当然、自室にある風呂の準備はできていない。だったら、
「共同浴場ならすぐに入れるかな?」
マリナに尋ねると、彼女は静かに頷いた。
「問題ありません。今は生徒も入っていないでしょうし、狙い目かもしれませんよ」
「そうだな」
混雑すると厄介だし、何よりすぐに汗を流してティーテに会いたい。
はやる気持ちを抑えつつ、共同浴場へと向かった。
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