第53話 嫌われ勇者、立ち上がる

 突如放たれた爆発的な魔力。

 その異変に気づいた者たちの視線は自然と外の様子を探るため、窓へと集中していた。


 俺は外の様子をより詳しく知るため、テラスへ出ようとしたが、


「待て、バレット」


 この日のために用意してきたのだろう。ビシッとタキシードでキメたウォルター先生に止められた。


「おまえも勘づいたようだが……さっきのアレの出所は間違いなく、以前ラウルが陥ったモノと同じだ」

「……そのようですね。とりあえず、魔力を追って、現状を確認します」

「お、おい!」

「バレット様!」


 俺とウォルター先生が話していると、ラウルが大慌てで駆け寄ってくる。その手には、舞踏会が始まる前にラウルへ預けた聖剣があった。俺はそれを受け取ると、ウォルター先生に笑顔で語る。


「この聖剣は、こういった時のためのものでしょう?」

「むぐっ……」

 

 ウォルター先生は閉口した。

 俺が本当に聖剣を授かった勇者ならば、こういう時こそ真っ先に立ち上がらなければならない。俺自身は確かにまだまだ未熟な面が多いだろう。それでも、聖剣の制御には成功しつつある。


 さらに俺を後押しする声が。


「こうなってしまっては彼の説得は難しいですよ、ウォルター先生」


 ジャーヴィスだった。


「僕も行こう。君だけでは不安――というわけではないが、人手は多い方が何かと都合がいいだろう?」

「そうだな」


 ジャーヴィスと共闘か……いや、少なくとも、今の彼は信用できると思う。というか、原作での闇堕ちっぽい展開も、元凶は間違いなくバレット(前)だろうし、ここで一緒に戦い、信頼関係を築いておくのは得策と言える。


「僕も行きます! 少しでもお力添いができれば!」


 そしてラウルも参戦を表明。

 こうなってくると、


「……分かった。その代わり、俺も行くからな」


 ウォルター先生も加わり、四人体制で調査へと乗り出す。

 とりあえず、生徒たちにはダンスホールに待機することと、他の先生方へ事態の説明に一旦その場を離れたウォルター先生が戻るまで、俺はティーテに事情を説明する。


「そういったわけで、俺たちはこれからさっきの魔力の正体を探りに行ってくる」

「は、はい……」


 不安げなティーテ。

 くそっ!

 せっかくの楽しい舞踏会をめちゃくちゃにして……絶対に犯人を捕まえてやる!


「バレット、行くぞ!」


 戻って来たウォルター先生に声をかけられ、そちらへ歩きだそうとした時、ギュッと袖を掴まれる。もちろん、掴んでいるのはティーテだ。


「あの、バレット……絶対に戻ってきてくださいね!」


 心から俺を心配しているティーテ。

 

「当然だ。まだまだティーテと一緒にやりたいことがたくさんあるんだし」

「私も! 私もバレットと……」


 そこで、ティーテは黙り込んでしまう。

 俺は最後に「大丈夫だから」と声をかけて走りだす。気になって、みんなのもとへ到着したと同時に振り返ると、ティーテが小さく手を振り、その脇にはレイナ姉さんが立っていた。どうやら、ティーテのフォローに駆けつけてくれたらしい。アベルさんの姿が見えないということは、彼もまた独自に動きだしているのかな。


「何が潜んでいるか分からんからな。注意を怠るなよ」

「「「はい!」」」


 俺とジャーヴィスとラウルはウォルター先生からの助言に返事をすると、外へと駆けだしていった。



  ◇◇◇



 学園郷の周辺は深い森となっている。

 自然と調和した学び舎というと聞こえはいいが、これだけ深い森だと誰かが潜んで暗躍していても気づきにくそうだ。もちろん、結界魔法などで侵入者が現れたら即対応できるようになってはいるのだろうけど。


 逆に言えば、侵入者対策に引っかからない――学園関係者であった場合、警備の穴を突くことは可能だ。


「さて……確かこの辺りだが……」


 先頭を行くウォルター先生が足を止める。

 先生の言う通り、この辺から強大な魔力を探知したのだが……特に変わった様子はなさそうに思える。


 ――だが、その状況はすぐに一変する。



「グガアアアアアアアア!!!!」



 夜の闇を引き裂く咆哮が、森に響き渡る。


「な、なんだ!?」


 周囲を見回すと、そいつはすぐに姿を現した。


「!? モ、モンスター!?」

「な、なんて大きさだ……」

「それに……こんなモンスターは見たことがないぞ!」


 ラウルやジャーヴィス、さらにはウォルター先生までも動揺している。

 ……そりゃそうだろうな。

 現れたモンスターの姿が異形すぎる。


 恐らくはオークのものと思われる三メートル近い巨躯。だが、顔は巨大な昆虫――それも双頭だ。右手に斧を持ち、左手には盾を装備。おまけにリザードマンのものと思われる太い尻尾がダンダンと乱暴に地面を叩いている。


 合成魔獣、とでも言えばいいのか。

 とにかく、あらゆる要素をごちゃ混ぜにしたモンスターだったのだ。

 これはやっぱり……人の手で造られた生物か?


「来るぞ! 戦闘態勢を取れ!」


 ウォルター先生の指示を受けて、俺たちはそれぞれの武器を構える。

 とにかく、こいつが楽しい舞踏会をめちゃくちゃにした犯人だっていうなら……その責任はとってもらわないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る