第50話 嫌われ勇者、主人公に懐かれる
マリナたちにイジられつつ、舞踏会への準備を進めていく。
まあ、それだけ信頼関係を結べていると思えばいいか。原作での三人はどこか感情がないというか……淡々と仕事をこなしていくって印象があったので、今の生き生きとしている姿を見ていると、やっぱりバレット(前)の悪影響があったのだろうなと思う。
時刻は夕方。
学園内の賑わいは昼間よりも大きくなり、それに伴って人の数も増えていった。
俺はというと、間もなく到着するだろうティーテを出迎えるため、学園正門近くへと足を運んでいる。
ただ、俺の頭の中にはどうしても例の事件――ラウル暴走事件の影がちらついていた。
仕掛け人は不明。
それどころか、ラウル暴走の原因さえ未だ突きとめられていない。
テシェイラ先生をはじめ、学園に在籍する専門家を総動員しているらしいが……それでも掴めないとなると、これはもう相当な使い手による犯行とみて間違いなさそうだ。
どうも、最初は舞踏会の中止も検討されていたらしいが、学生のみが参加する小規模なものとはいえ、そこは紳士淑女の社交場。他学年との交流という名目の他に、何やら政治的な思惑が見え隠れしている。でもまあ、舞踏会って本来はそういうものらしいし、当の学生たちはそういった大人の目論見に関係なく楽しんでいる。
中には、いろいろと画策をしている者もいるようだが、そういった怪しげな連中はすでに姉さんたち生徒会の面々がマークしている。
その姉さんも、今日は気合十分といった感じでバッチリ決めている。爽やかな青いドレスはいかにも姉さんが選びそうなデザインだ。
――と、いかんいかん。
間もなくティーテが到着する。
一体どんな感じで来るのか。
「間もなくティーテ様が到着されますね!」
「ああ……楽しみだな」
俺の横で俺と同じくらいワクワクしている男子がいる。
今日、俺の世話係として舞踏会に同行する主人公ラウルだ。
ちなみに、今ラウルが身につけている服は俺が持ってきた服だ。
少し前、制服では舞踏会に参加できないことを知らされたラウルは、絶望のどん底に叩き落とされていた。
そこで、俺は自分の服をラウルに貸し出すことを提案する。体格も似たようなものだし、ちょうどいい。
当初、ラウルはこれを全力で拒否――というか、「自分のような者がバレット様のお召し物を着るなんて!?」と立場を理由に断られていた。
しかし、俺としても、ラウルが苦境の中で挫けず、ここまで這い上がってきていることは原作を通して事細かに熟知している。そんな彼には、是非ともこの晴れ舞台に上がってほしかった。
その想いから、俺はラウルを説得。
結果、こうして一緒に舞踏会へ参加できたわけだ。
……正直、ラウルがここまで気にかけてくれていたのは意外だった。
何せ、俺――というか、ちょっと前まで、ラウルを陥れようとしていた張本人だ。
俺はそれについて謝罪をしたが、ラウルは、
「僕は入学当初から、あなたに憧れていました」
と、衝撃的な事実を口にする。
「いつの日か、あなたに認めてもらうのが、僕の目標でしたから」
一点の曇りさえない瞳で見つめられながらそう言われた。
まあ、もしバレットがあのままだったら、きっと一生涯認められなかったのだろうけど……でも、入学当初ってことは……随分と前からバレットに憧れていたんだな、ラウルは。原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では、そういった描写はなかったはず。
……待てよ。
執拗な嫌がらせに対して、ラウルが明確にバレットへ嫌悪感を示す描写もない。
もしかしたら、最新話までに明かされていないだけで、「ラウルがバレットに憧れていた」という設定は存在していたということか?
だとすると……いよいよ原作におけるバレット再登場説もあり得る気がしてきた。
くそっ……せめて、スマホでもあれば、【最弱聖剣士の成り上がり】の最新話が読めたかもしれないのに。
さすがにこのまま続きが投稿されずに終わるってこともないだろうから、先の展開は描かれているはず。と言っても、最新話の段階で少なくとも今から五年以上先の話なんだよなぁ。
「あっ! 到着したみたいですよ!」
ラウルが俺の服の裾を引っ張りながら、興奮気味に話す。
指差す先にはエーレンヴェルク家の紋章が入った馬車があった。
いよいよ、か。
馬車が俺たちの前で止まると、俺はゴクリと息を呑んだ。
そして、御者がドアを開けると、中からティーテが姿を見せる。
その姿は――
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