第47話 男同士の約束
「愛するティーテのため……なるほど、実に頼もしい言葉だ」
嘘偽りのない俺の言葉に、アロンソ様はわずかに微笑んだ――が、その笑みはたちまち消え去り、むしろ険しさが増しているような。
「なら、君が例の暴走事件を追っているのも――」
「学園の生徒が標的となったなら、ティーテにも危険が及ぶ可能性があります。ティーテの安全のためにも、俺は一刻も早く犯人を捕まえたいだけです」
これもまた嘘など欠片もない本音だ。
現に、二件目のリック先輩の時には実際にティーテは危機的な状況に直面していた。あの時は偶然俺が一緒にいたからよかったものの、いつティーテが襲われるか……考えただけで震えてくる。
「…………」
一方、アロンソ様は俺が暴走事件を追っている理由を知ると、顎に手を添えて何やら熟考を始めた。しばらくすると、ため息と共に言葉を漏らす。
「君の考えはよく分かった」
「えっ?」
「ティーテのことを……本気で考えてくれていたのだね?」
当然だ――と、いうのが俺の中での真実。
だけど、アロンソ様がこれまで見ていたバレット・アルバースとはまるで違った考えを持っていると言って過言ではない。なんとなく感じていたアロンソ様への違和感……それは、所々で俺を試そうとしているような言動があったからだと気づいた。
「アロンソ様……俺は本当にティーテのことが好きなんです。彼女を守るためにも、俺は毎日聖剣を制御できる自主鍛錬に励み、彼女の横に立っても恥じない姿であろうと常々思っています」
「バレットくん……」
俺の訴えはアロンソ様の胸に届いたようだ。
目頭を押さえて俯いた後、顔を上げたアロンソ様の目は赤く充血していた。
「本当にありがとう……」
「お礼なんて……この聖剣に誓って、必ずやティーテを守り抜き、真犯人を捕まえたいと思います」
「うむ。だが、くれぐれも無茶をしないようにな」
「分かっています」
それこそ、ティーテを悲しませることになりかねないからな。
ただ、俺は今回の事件の裏に、原作【最弱聖剣士の成り上がり】で未だに不透明となっている敵組織の影を見た気がした。
一応、原作でのバレットは「魔王討伐を目的とした勇者」ということになっているのだが、その肝心の魔王軍の描写が一切ない。これについて、考察組からは「本当の敵は別にいるのではないか」という説が出され、有力視されていた。
原作ですら発表されていない敵組織を見抜くのは難しい。
だが、俺は直感で、今回の件に関与している組織が、【最弱聖剣士の成り上がり】における最初で最後の敵ではないかと思っている。
そのためにも、しっかりと鍛錬を積んでおかないとな。
改めて気持ちを引き締めていると、突如ノックが。アロンソ様が入室を許可すると、やってきたのはリリア様だった。
「ティーテの準備は整いましたよ」
「そうか」
「どんなドレスなんですか?」
「それは当日のお楽しみに取っておいた方がいいわよ」
む。
それもそうだな。
さすがはリリア様だ。
「それより、殿方ふたりでどのようなお話を」
「学園での生活ぶりを聞いていただけだ」
そう語る直前、アロンソ様はアイコンタクトで「先ほどの話は内密に」と訴えかけてきた。リリア様は体が丈夫な方ではないからな。あまり不安になるようなことを教えて心労が増えたら大変だ。
俺は静かに頷くことで、アロンソ様の意思を受け取った旨を示した。
その直後、
「バレット、またみんなでトランプをしましょう♪」
ドレスの準備を終えたティーテがやってくる。
「ああ、今行くよ。では、俺はこれで」
「うむ。……君とこうして話ができてよかったよ」
「俺もです」
「何か困ったことがあったら、私に相談してくれ。ティーテと婚約者ということは、私と君も家族になるのだから」
「ありがとうございます」
俺は深く頭を下げ、お礼の言葉を添えることで感謝の気持ちを表した。
お義父さんにもこう言われたんだ……必ずティーテを守り抜く。
そして、学園に潜む怪しい影も、聖剣で薙ぎ払ってやる。
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