第40話 要注意人物たち
さて、学園舞踏会の約束も正式に取りつけたことだし、あとはのんびり当日を待つ――というわけにもいかない。
学園の裏で暗躍する人物の存在が気がかりだ。
ラウルとリックの暴走事件。
その事件に関わっている可能性があるティモンズ先生。
メイド三人衆もいろいろと手を尽くしてくれているが、なかなか尻尾を出さない……まあ、学園の関係者でさえ、未だに有力な情報を手にしていないようだから、相手は相当な手練れであると思われる。
ただ、リックの事件以降、同じように暴れだすような生徒は現れなかった。
やはり、学園をパニックに陥れるというより、何かの実験をしているという考えの方が自然かな。
ともかく、こちらでも極秘で調査しつつ、それとなくウォルター先生やテシェイラ先生にも話を聞いていこう。特に、テシェイラ先生は今も聖剣絡みのことでいろいろとお世話になっているので、聞きやすい。
あと問題は……バレットの人間関係か。
ただ、これは事前にある程度の情報があったため、割とすんなり対処できた。
というのも、話は簡単なことで――深く関わらなければいいだけのこと。
原作ではバレットをヨイショし倒して専属商人というポジションを確保していたウェイドだが、俺はそのヨイショを軽くスルー。しばらくすると、ウェイドは脈ナシと判断したようで、絡んでこなくなった。
他の連中も同様だ。
聖剣に選ばれたことで、俺にすり寄ってくる者たちが後を絶たなかった。学園の関係者だったり、生徒の親か、もしくはそのつながりか――ともかく、たくさんの大人が俺のもとを訪ねてきた。
そのほぼすべてが、見え見えのお世辞でヨイショし、気分を良くして取り入ろうとするのだが、俺はそれをことごとく突っぱねる。その成果もあって、近づいてくる者は日に日にその数を減らしていった。
――ただ、ひとりだけ例外がいる。
それは、のちにパーティーのメンバーとなって、バレットと共に悪事を働くジャーヴィスだった。
彼は事あるごとに俺へ声をかけてくる。無視をすると、せっかく持ち直した好感度が下がりかねないと思い、当たり障りのない返事で対応しているのだが……それにしたって凄い執念だな。
そのアプローチの末、ついには、
「ジャーヴィスくん……バレットのことが凄く好きみたいですね」
放課後、いつものように、応接室でティーテと楽しい時間を過ごしている際に、そんなことまで言われる始末。
まあ……パッと見では女子と言われても納得してしまいそうな顔立ちだしね。
だが彼は「男」だ。
俺にそんな趣味はない。
「好きって……俺とジャーヴィスは男同士だからなぁ」
「そ、その好きじゃなくて、友だちとしての好きですよ」
「分かってるって。……でも、もし、ジャーヴィスが男の俺を好きだったら――」
「えっ?」
からかうつもりで言った――はずが、ティーテさん? なんで黙っちゃうの? なんで顔赤くしているの? 俺とジャーヴィスがどうなっている想像したの?
……と、追及するのも面白そうだが、ここはあえて沈黙を選択。
しばらくして、ハッと我に返ったティーテをニヤニヤしながら眺める。
――さて、羞恥に悶えるティーテを堪能したところで、本題に移ろう。
実は、ジャーヴィスについての調査もマリナたちへ依頼していた。
こちらはすぐに情報が集まったのだが……なんの変哲もない中流階級の家柄で、これといって特筆するべき長所はない。勤勉で誠実。友だちも多く、男女分け隔てなく接しているナイスガイ。
なんというか、バレットとは正反対の人間像だ。
しかし、そんな彼がなぜあのような悪党に変わったのだろう。
作品の都合における性格改変――なんて言ってしまえば簡単だが、事はそう容易いものではなさそうだ。
「ジャーヴィスにも、何か秘密がありそうだ」
ティモンズ先生に続き、ジャーヴィスにも暴走事件に関わる情報が出てきそうだ。
――よし。
難しい話はここまでだ。
気を取り直して……「勝負」に集中しよう。
「やった! これであがりですね」
「っ! 不覚を取ったにゃ……!」
今、俺とティーテ、そしてうちのメイド三人衆を合わせた五人でトランプに興じていた。ババ抜きなんて、やるのは小学生以来だけど、やってみると意外に熱中するな。
「さあ、次はティーテ様の番ですにゃ!」
「分かりました!」
プリームの手札から一枚引き抜くティーテ。
その表情は――絶望色に染まっている。
ババを引いたのか……なんて分かりやすい。
ま、いろいろ考えたけど、すべてはこれからだ。
特に学園舞踏会――ここでも何かが起こりそうだな。
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