第39話 嫌われ勇者、幼馴染聖女を誘う
女性関係どころか、そもそも普通の人間関係自体が危うかったバレット(前)。
特に聖剣を手にしてからはすり寄ってくる悪党も多いので、特に気をつけたい。ウェイドくらい露骨なヤツなら助かるんだが。
特にあのジャーヴィスって男子には要注意だ。
学園にいる生徒で唯一勇者パーティーの一員として旅に同行する、バレットの片腕的存在だからな。
……もしかしたら、ティモンズ先生も裏でバレット(前)と悪しき関係だったのかもしれない。その謎を紐解くためにも、メイド三人衆の情報が待たれる。
演習明けの翌日は午前中のみの授業となった。
アストル学園では、たまにこういう日もあるらしい――が、いつもならば事前に通達があるのみ、今回は当日の朝に知らされるという急なものだった。
いわゆる職員会議的なものらしいが……議題は間違いなく、ラウルとリックの暴走事件についてだろう。急に教師たちを集めたとなると――もしかして、事件に関する重要な情報が手に入ったのか?
「バレット? どうかしましたか?」
「っ! あ、い、いや、なんでもないよ」
……教師たちが何を話し合っているのか、その内容が気になるところではあるが、今は緑化委員の仕事に専念しよう。ティーテを不安にさせるわけにはいかないからな。
午前中の座学の授業を終えた後、俺とティーテは緑化委員に顔を出した。
委員長のハンスにコルネル。そして、
「こんにちは、バレット」
「やあ――メリア」
メリアの三人だ。
バレット(前)が口説いた――というか、声をかけた女子たちとの関係をクリーンにし、婚約者であるティーテとの関係を大幅に改善したことで、クラスメイトとの関係も劇的に変化していった。
メリアの恋人(?)でクラス委員のクライネだけは、未だに俺のことを信頼しきっていないようだが、他のクラスメイトとは自然に会話ができるようになってきた。
時に大きな変化は、先ほどのメリアのように、俺を「様」づけで呼ばなくなったこと。これが地味に嬉しい。
「いい柄の鉢ね、ティーテ」
「王都でバレットと一緒に買ってきたんだよね?」
「うん♪」
コルネル、メリア、ティーテの三人は両手を泥だらけにして作業に夢中となっている。それぞれ、緑化委員の仕事に適した、運動用の服に着替えているため、汚れることを期にはしていないようだ。
「素晴らしい光景じゃないか」
三人を眺めていた俺のもとへ、ハンス委員長がやってくる。
「麗しき少女たちが汚れることもためらわずに花壇の手入れとは……」
「そ、そうですね」
感極まって、変なテンションのハンス委員長。
この人の実家も凄いらしいが……まあ、ある意味、この人も凄いけどね。
「そういえば、バレット」
さっきまでうっとりとした表情でティーテたちを眺めていたハンス委員長は、突然真顔になってこちらを向く。テンションの高低差エグいな。
「来週の休日にある例の催し――すでに彼女には声をかけてあるんだろうね?」
妙な迫力を含ませて、ハンス委員長が迫る。
次の休日は、二日のうち一日をティーテの実家であるエーレンヴェルク家の屋敷で過ごし、残りの一日はハンス委員長の言った催しに参加するつもりだ。
その催しとはズバリ――舞踏会。
といっても、貴族がやる格式ばったものではなく、学生同士の交流会という名目で行われるらしい。新しく入った新入生との親睦を深めるという意味も込められている。最近の騒動の影響で中止も考えられたらしいが、いろいろと表沙汰にできない(たぶん、貴族絡みだと思われる)理由があるらしく、開催を決定らしい。
俺はこの舞踏会にティーテと共に参加する予定だ。
前日にエーレンヴェルク家を訪れるのは、その準備のためだったりもする。
……だけど、俺はここで肝心なことに気づいてしまった。
俺は正式に――ティーテを舞踏会に誘っていない。
いや、だってさ、マリナたちが、
『今年は昨年とはまるで違った舞踏会になります!』
『楽しみだにゃー!』
『とりあえず、ご当主お抱えの絵師に舞踏会の様子を描いていただき、それを屋敷中に飾りましょう』
この調子だった。
正直、暴走事件の調査が疎かになっていないか?
「どうなんだい?」
「あ、いや、その……きょ、今日、この後に誘います」
距離を詰められた俺はそう返す。
我ながら、情けない限りだ。
――で、結局、委員会の帰り道で「一緒に舞踏会へ行こう」と改めて誘ったら、
「~~~~っ!」
ティーテは泣きだしてしまった。
なだめるのに苦労したが、喜んでもらえたようで何よりだ。
……マリナたちにダンスの指導をしてもらわなくちゃな。
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