第37話 嫌われ勇者、演習に挑む
嫌われ勇者のバレットに転生して二週間が過ぎた。
あれから特に事件などは起きていない。
ラウルとリック――暴走事件を起こしたふたりはすでに学園生活に復帰。教師陣は両者からいろいろと事情を聞きだしたらしいが、暴走するきっかけというか元凶は未だに掴めないでいた。
俺はメイド三人衆にティモンズ先生の身辺調査を行わせていたが、そちらも怪しい行動をキャッチできず。
暴走事件の真相解明は暗礁に乗り上げていた。
「うーん……ティモンズ先生は今回の事件に関わっていないのかな?」
「なかなか尻尾を出しませんね。――ただ、裏で何かをしているというのは確かなようです」
「問題はそれが学園側からの指示で動いているかどうかってことか」
もし、学園が秘密裏に何かの調査をティモンズ先生に依頼していたというなら、学園側に問いただしても明確な答えは得られないだろう。
原作に出てきたティモンズと学園のティモンズ先生が同一人物である確証がない以上、地道な調査を続けなければならない。
――で、ティーテとの関係はというと……まさに順調そのものであった。
その証拠に、今度のお休みにはエーレンヴェルク家のお屋敷にお邪魔することとなったのである。
ただ、これはエーレンヴェルク家サイドからすると、凄まじいプレッシャーがかかるだろうなぁというのは容易に想像できる。何せ、同じ貴族であっても、位が違いすぎる。ティーテの方から、「気を遣わなくていい」という旨を知らせてもらい、なんとか和らげようとしているのだけど……。
◇◇◇
翌日。
この日は久しぶりの魔法演習が行われる。
今回は聖剣の使用が許可されているが、実際に物理攻撃として聖剣を使うことは禁じられている。あくまでも魔法演習。魔法での攻撃と防御しか許されないのだ。
「よーし! やるぞ!」
俺は気合満点だった。
というのも、最近は聖剣の制御が非常にうまくいくようになり、テシェイラ先生からもお墨付きをもらえるほどにまで上達したのだ。
コツを掴むまでが大変だったけど、それさえパスできれば後はトントン拍子に進んでいくって感じだ。まるで体の一部のように聖剣が馴染んでいる。
「頑張ってくださいね、バレット!」
そんな絶好調な俺にティーテの声援。
もはや負ける気がしない。
「両者前へ!」
ウォルター先生の合図で、俺は一歩前に。
今日は別属性クラスとの合同授業ということもあって、普段あまり接しない生徒との戦いになる。
「「お願いします!」」
正面で向き合い、一礼。
相手の名前はトーマス。
褐色肌にオレンジの髪をした男子生徒で、同属性の学園ランキングでは入学二年目でありながらすでに上位に名を連ねている実力者だ。
ちなみに、光属性における俺のランキングは現在八位で、トップはレイナ姉さんである。
「はじめ!」
演習が始まった――途端、
「ふんっ!」
気合を入れたトーマスの体を炎が包む。
その炎は次第に形を変えていき――最終的に大蛇の姿へと変化した。
「「「「「おおっ!!」」」」」
両クラスから歓声があがる。
さすがはランキング上位者なだけはあるな。
炎属性とはいえ、あそこまで自由自在に操れるのは上級生でもなかなか見かけない。
「全力でやってもいいんだろ? ――バレット・アルバース」
「もちろんだ」
以前のバレットならば、相手の手加減が前提――いや、敗北が前提の完全八百長演習だったはず。
だけど、今は違う。
相手のトーマスもそれは分かっているのだろう。
「いくぜ!!!!」
トーマスが放った炎の大蛇は真っ直ぐこちらへと向かってくる。
素晴らしい練度だ。
きっと、相当な修行を積んできたに違いない。
――けど、俺と聖剣だって負けはしない。
正面から来る相手の魔法に対し、こちらも正面から迎え撃つ。
俺が聖剣を振ると、眼前に光の盾が出現する。
炎の大蛇が光の盾にぶつかった瞬間――強烈な爆風が周囲を襲う。
「ぐっ!?」
「うおっ!?」
俺とトーマスはなんとか踏ん張って耐える。
爆風が巻き起こした砂煙は視界を覆い、相手の姿を隠した。
どこから狙ってくる……神経を研ぎ澄まし、聖剣へ魔力を集中させながら、相手の出方を待った。すると、
「そこまで!」
ウォルター先生が終了の合図を出した。
どうして止めたのかと疑問に思っているうちに、砂煙は徐々に晴れていき――トーマスが両手を上げている姿が飛び込んできた。
「俺の渾身の一撃を返されちまった……打つ手なしだ」
「トーマス……」
「それに、おまえ――まだ本気じゃなかったろ?」
……そこまで見抜いていたのか。
敗北を認めたトーマスはゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「さすがだな。噂通りの実力だ。――もっとも、戦っている時の態度は噂とだいぶ違ったが」
笑いながらそう言って、トーマスは手を差し出す。
俺はそれをしっかりと笑顔で握り返した。
「次はもっと腕を磨いてから挑戦させてもらう」
「いつでも受けて立つよ」
そうして、互いに礼をしてからそれぞれのクラスへと戻る時、周囲からは拍手が起こった。
俺たちの健闘を称える拍手――周囲の評価は改善傾向にあると見ていいのかな。
「やりましたね、バレット!」
戻ってくると、真っ先にティーテが声をかけてくれた。
「ありがとう、ティーテ」
「とてもカッコよかったです!」
「ティーテにそう言ってもらえると嬉しいな。……これは、またご褒美を期待しても?」
「はい♪ 頑張ります♪」
よしよし。
これでまた楽しみが増えたぞ。
「あっ! 次はコルネルが出るみたいです!」
「なら、応援しないとな――って、しまった。タオルを忘れちまった。ちょっと取りに行って来るよ」
「分かりました」
俺は忘れ物を取りに行くため、ウォルター先生に断りを入れてから一旦校舎へと戻った。
「おっ? あったあった」
タオルを手にし、顔を拭いながら演習場へ戻る途中、
「バレット様」
見知らぬ中年男性が、俺の行く手を遮るように立っていた。
最初は「誰だ?」と思ったけど……こいつは――
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