第35話 嫌われ勇者、謝罪する
休み明けの学園。
俺は授業後の時間を利用して、リストにあった女生徒たちへ接触を試みることにした。
二日ある休みのうち、一日目はティーテとのデート。
翌日、ティーテは実家に戻る用事あるということだったので、俺は部屋にこもって謝罪プランを練るために丸一日を費やした。これにはマリナ、プリーム、レベッカのメイド三人衆にも協力を要請し、リストに載っている女子がどのような人物なのか聞いたりして、綿密に計画を練っていった。
その途中、メイド三人衆がリストにまとめた、バレットが口説いた相手というのにはある共通点に気づく。
それは、漏れなく大人しい性格か、友だちが少ない者であるということ。
つまりどういうことかというと――迫られても強く断れない女性をターゲットにしていたのである。卑劣という言葉が擬人化したようなヤツだな、バレット(前)。
だが、なぜバレットはそのような子を狙ったのだろうか。
原作での傍若無人な振る舞いを考慮すれば、誰彼構わず口説きまくっているはずだ。
考えている俺の目に、神授の儀で神から授かった聖剣が飛び込んできた。
そういえば……原作でバレットが勢いづいたのは神授の儀を終えてから――つまり、聖剣を手にしてからということになる。
……そうだ。聖剣だ。
原作でのバレットが周囲に対してあそこまで偉そうにできていたのも、聖剣に選ばれた勇者になってから。元々、名のある貴族の出身だが、それにしたってめちゃくちゃだとは思っていたが……聖剣に選ばれてしまったことで、とうとう誰も彼を注意できなくなってしまったということらしい。
だとしたら、タイミングとしてはギリギリセーフってところかな。
今ならまだやり直せる。
休みが明けた今日からがそのスタートだ。
◇◇◇
決意も新たに挑む謝罪第一弾は――やっぱりメリアだ。
「メリア。実は話したいことが――」
「ちょっと待ったあああああ!」
メリアに話しかけると、当然とばかりにクライネもついてきた。
校舎屋上に造られた庭園へと場所を移し、俺はメリアにこれまでの行為を謝罪し、深々と頭を下げた。
「「…………」」
メリアとクライネは沈黙。
大人しい性格のメリアは謝られたという行為自体に驚いているようで、クライネは俺が頭を下げて謝罪していることが信じられないようだった。
「あなた……なんの気まぐれよ」
「気まぐれなんかじゃない。俺はこれまで自分のしてきた軽率で愚かな行為を心から謝りたいと思っている。信じてもらえないかもしれないが……俺は変わったんだ。俺は――本当にティーテが好きなんだ」
「!」
怪訝な表情を浮かべるクライネは、メリアへと振り返る。
実際に言い寄られて迷惑していたのはメリアだ。
そのメリアの出した答えは――
「分かりました。……あなたを許します」
メリアは笑顔で俺にそう告げた。
「っ! あ、ありがとう!」
「!? ちょ、ちょっと!?」
お礼を言う俺を押しのけて、クライネはメリアへと迫る。正直、俺自身がここまですんなり受け入れられるとは思っていなかったので驚きだ。
「いいの!? あいつはメリアを――」
「でも、今は本当にティーテちゃんを大事にしているのが伝わってくるから……」
そう語るメリアの声はいつもと変わらず少し弱めだが、語気は強いというか……こちらを見つめながら放つ言葉は重みがある。
「私はティーテちゃんの友だちとして、彼女の幸せを願っています。――今のあなたならその願いを託せます」
「メ、メリア……」
真っ直ぐに明言したことで、クライネは何も言えなくなってしまったようだ。
「……私は、正直言って、まだあなたのことを信じられないわ」
だろうな。
「それでもいい。これからの行動で示していくよ」
やはり、クライネはそう簡単にはいかなそうだ。
ただ、メリアは俺の中にある変化(というか、まったくの別人になっているのだけど)に薄っすらとではあるが気づいているようだ。弱気で、いつもクライネの陰に隠れてばかりにいると思っていたが、実際はそうでもないらしい。
それから話を聞いていくと、メリア自身はバレット(前)から言い寄られていることについて、「どうせ本気ではない」と冷めていたようだ。きっと、普段の軽薄な態度がそう思わせたのだろう。ただ、面と向かって断ることができなかったため、ズルズルと迫られる関係が続いていたという。
その頃から、すでにクライネとは「そういった関係」だったので、まるで相手にはしていなかったそうだが……緑化委員でティーテと一緒にいるところを見たことで、「変わったな」と思ったらしい。
ともかく、メリアとの関係をスッキリさせたことで、少し自信が出てきた。
全員がこうも簡単に進むとは思えないが、ひとりひとりに対してしっかりと誠意を持って謝り、綺麗サッパリしよう。
俺はメリアたちと別れた後、時間が許す限り謝罪行脚を続けた。
女子の中には「顔も見たくない」という反応だったり、怯えてなかなか会話が成立しなかったりと一筋縄ではいかなかったが、俺はひとりひとりと直接会ってこれまでの行動の数々を謝罪していった。
結局、今日一日でほとんどの女子と接触することができた。
反応はそれぞれだったが、誰ひとりとしてバレットからの誘いに本気で乗った者はいなかったようだ。中には「聖剣に選ばれたことで改心した」と解釈してくれた子もおり、聖剣の思わぬ効果が垣間見えた。
このまま順調に終わってくれたらいいんだけど……。
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