第32話 嫌われ勇者、怪しい存在に気づく

 暴走した男子生徒――名前をリックというらしい。

その彼は駆けつけた教師たちにより連行された。

 事情を話すため、俺とティーテと共に職員室のある中央校舎へと逆戻りとなった。




「そうか……なんの脈絡もなく、か」


 俺たちの聴取を担当したのはウォルター先生だった。


「はい。正気を失っているようで、こちらの話をまったく聞こうとしない感じです」

「……まるで模擬戦の時のラウルだな」

「それは俺も思いました」

「ふーむ……」


 ウォルター先生は背もたれに筋骨隆々とした肉体を預け、大きく息を吐いた。


「ラウルとリック……学年や属性クラスが違うし、接点らしいものも見受けられない」

「なら、第三者がふたりに毒を盛った?」

「だとしたら、由々しき事態だぞ。学園郷では厳しい検査が行われていて、毒物なんてとてもじゃないけど持ち込めない。……リックの目が覚めたら、毒薬に詳しいティモンズ先生と一緒に話を聞かないとな」


 ウォルター先生の言葉を耳にした俺は「あ、そうか」と思うと同時に、なんだか違和感を覚えた。

 それは今回の一連の事件と関係があるかどうか定かではないが……どうにも気になって仕方のないことだった。


 原因は聴取担当としてウォルター先生が口にした「ティモンズ先生」の存在。

 この人の名前……原作で出てきたな。

 どのシーンだったかは忘れたけど……確か、直接主人公のラウルたちに関わったわけじゃないはず。どこかで名前だけが出ていたはずなんだ。


 あれは……どこだったかなぁ。

 ラウルのハーレム要員になっていた子と敵対関係にあったような。

 だとしたら、この学園時代から裏で何かやっていたのか?

 ……まあ、同名って可能性もあるから、まだ断定はできないけれど。


 それに、ここで迂闊な質問はできない。

 実際に原作で名前が出た時は、すでにラウルたちは学園を卒業して旅をしていた。だから、まだこの頃は悪事に手を染めていない可能性だってある。証拠らしい証拠なんてないし……今の状態でウォルター先生に言っても信じてはくれないだろう。


「何かしらの毒を盛られたというなら……犯人は学園内にいることになる」

「だ、誰かが侵入して持ち込んだとか?」

「いや、それはないだろう」


 ウォルター先生はティーテの推測を即座に否定した。


「学園関係者以外が敷地内に侵入したら、張り巡らされた結界魔法が感知して職員室に知らせが入る。外部から持ち込めるとは思えない」

「じゃあ、これから調査ですか?」

「ああ、そのつもりだ。――っと、もうこんな時間か。悪いな、休日前だというのに遅くまで拘束してしまって」

「全然構いませんよ。それより、何かお手伝いできることがあるなら、言ってください」

「……おまえは本当に何があってそうなったんだ?」


 怪訝な表情を浮かべるウォルター先生。

 原作のバレットの性格を考えたら、絶対にそんなこと言わないだろうな。文句垂れ流した後に悪態をついて出ていくってパターンだろう。


 まあ、これは教師陣からの好感度アップを狙った作戦というより、個人的な関心も少し含まれていた。さっき名前の出てきたティモンズ先生の存在も気になるし。



 俺たちの聴取は時間も遅くなっていたということもあって簡易的なもので終わった。

 教師たちからすると、俺たちよりも事件の当事者であるリックに話を聞いた方が早いだろうからな。

 俺たちは寮へ戻るため、再びあの道を進む。

 ただ、あんな出来事があった直後ということで、ティーテは少し怯えているようだった。なので、


「ティーテ」

「は、はい……」

「手をつないで行こうか」

「はい。――はいぃ!?」


 変な声をあげて驚くティーテ。

 そんなティーテの返事を待たず、俺はその小さく白い手を握った。


「あっ……バ、バレット……」

「ほら、これなら怖くないだろ?」

「はい♪」


 ティーテに笑顔が戻った。

 この笑顔を曇らせてはならない。

 そのためにも……一連の事件の真相を掴む必要があるな。


 とりあえず、その件は一旦後回しにするとして――明日のデートに全神経を集中させよう。

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