第31話 嫌われ勇者、女子を守るために戦う
突如襲撃してきた男子生徒。
その様子は明らかに正気を失っていた。
そして、全身から溢れ出ている爆発的な魔力――模擬戦でのラウルと同じ状況だ。
原作の【最弱聖剣士の成り上がり】には、バレットが暴走した生徒に襲われるというシーンは存在していない。
だが、原作での描写がないだけで、バレットはこの事態に遭遇していたのかもしれない。そもそも、原作では本来の主人公であるラウル視点がほとんどだ。回想編でのバレットは正直言って空気に等しい。
あるいは……俺が原作とまったく違う行動を取ったことで生じた、イレギュラーなイベントか。
……どちらにせよ、このまま放置して逃げ出すわけにもいかない。
「おああああっ!」
獣のように叫びながら、男子生徒は剣を振り回す。
「……話し合いには応じてくれそうにないな」
俺は聖剣を抜き、構えた。
男子生徒の攻撃をかわしながら、剣全体に魔力をまとわせていくと、やがてぼんやりとした淡い光に包まれていく。戦闘準備は整った。
さすがに、同じ学園の生徒をぶった斬るわけにもいかないので、軽く吹っ飛ばし、気絶させようとする――が、
「があっ!」
「うおっ!?」
元の実力を知らないが、かなりのスピードだ。そういえば、ラウルも全体的な能力が劇的に上がっていたが……そういった効果をもった薬物でも使用しているのか?
だけど、ラウルの性格を考慮すると、それはあり得なさそうだが。
何せ、生真面目って言葉が擬人化したような感じだしなぁ。
……まあ、原作ではハーレムを作っているので、普通に考えたらその時点で真面目じゃないって言えるかもしれないけど。
ともかく、この学園でのラウルはそんな危険な物に手を出すようなヤツじゃない。
「真相を知るためには――あんたの証言が必要になるな!」
「ごああっ!」
剣を振るってくる男子生徒に、俺はカウンターの一撃をお見舞いする。もちろん、威力は抑え、急所も外した。俺が狙っていたのは――相手の武器だ。
「があっ!?」
手にしていた剣は、俺の放った一撃で宙を舞うと、近くにあった木の幹に突き刺さった。
「これで終わりだな」
まともな人間が相手なら、それで済むが……もはや獣と化している男子生徒はその程度では止まりそうもなかった。
「があっ! があああっ!」
「お、おいおい……もう暴れるな!」
様子がおかしい。
なんだか苦しんでいる……口の端から泡も吹いているようだし、このままの状態でいるのは命の危険もある。
「ティーテ! 誰でもいいから先生を呼んできてくれ!」
「は、はい!」
間違いなく、この男子はラウルの暴走の件と何かしらの関連性を持っている。さっさと気絶でもさせないと、もしこの場に俺たち以外の誰かが遭遇したら――
「ねぇ、何か変な声がしなかった?」
「やだぁ……最近出るっていう変質者じゃない?」
「は、早く行こうよぉ」
って、そんなことを考えると現実に起きるものだよな。
背後から、学園での活動を終えた女子生徒三人がこちらへと近づいてきていた。
「き、危険です! 引き返してください!」
ティーテの叫び声を受けて、三人の女子は異常事態が発生していることを理解する。逃げるために走りだすが、その行為が暴走する男子生徒を刺激する。
「があぁ……んあっ!」
暴走男子の興味関心は俺から逃げだした女子たちへ向けられた。
背を向けて逃げだした者を追いかける――まさに獣の本能って感じだ。
「させるか!」
俺は男子を追いかける。
女子の背後まで迫り、飛びかかろうとした瞬間、ギリギリ追いつくことに成功し、そのガラガラの脇腹に力いっぱい蹴りを叩き込んだ。
「ごああっ!?」
よだれを巻き散らかし、痛さと苦しさに悶える。
女子三人が襲われる前に割り込めてよかった――と、安堵していたら、
「えっ!? あ、あのバレット・アルバースが助けてくれた!?」
「う、嘘……」
「信じられないわ! きっとあとでお助け代と称して法外なお金を要求されるわよ!」
ひどい言われようである。
……まあ、何ひとつ言い返せないことしてきたからね。
思わず表情が引きつってしまったが、とにかく隙ができた。
「ここは俺に任せて早く行ってくれ。あの男子はしばらくまともに動けないだろうから、先生に詳しく診てもらうとしよう」
「は、はい!」
「あ、え、えっと……」
「うん?」
「助けてくれてありがとうございます!」
女子のひとりが、そう言ってペコリと頭を下げた。それにつられるようにして、残りふたりも頭を下げる。
図らずも、好感度上昇に成功したようだった。
女子三人とティーテを加えた四人は大急ぎで職員室を目指す。ティーテひとりで十分とは思うが、人数が多ければ話に説得力が持てるだろう。
「さて、と……」
未だ苦しみ続ける男子生徒。
果たして……彼は何が原因でこうなってしまったのか。
もしかしたら、ラウル暴走の謎もそこに隠されているかもしれないな。
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